11日目 カラオケ

彼曰く、強制アニソンメドレー。


 ***


後輩とのご飯の帰り。

何の気なしにこぼれた言葉に流されて、音響の設定バグってるんじゃないかという建物に入った。


「カラオケ行きません?」

「行きましょ行きましょー」

「おー、カラオケねー。久しく行ってないし行ってもいっか、どうせ暇やし」

「さすが!レッツゴーっすね!」


コロナなんて何のその。

もちろん人数も少なめ、マスクや消毒などの対策もしっかりしたうえでイン。

青いネオンに真っ赤な文字で主張するデカいホテルみたいな店は、最近は言ったお店で一番きらびやかで、輝いていて、そしてうるさい私たちを真正面から迎え入れてくれた。


カラオケに来てまず最初に入れる曲で、その日何を歌えばいいかが決まると私は思っている。

その日のルートマップ、路傍の標識だ。

自分が歌える楽曲のレパートリーは決して多くない。

だがカラオケに来ている以上、歌わないわけにはいかない。

ましてや後輩二人に先輩の私。

これで歌わなかったら後輩たちはただの接待だし、私だって立つ瀬がない。

これでも好きな曲の一つや二つ、持っているのよ。


だからこそ、ここは先輩として、威厳を見せねばならぬ。

そう。

”私が”歌いやすいように、私がインター入り口に突っ込んでいかなければ。

掴みが上手くいけばあとはただ突っ走るだけ、ETCで楽々通過だ。


入るなりリモコンをひっつかんだ私は、手慣れた動作でリモコンをいじり目的の楽曲を送信した。

「早いっすよー」

「え、最初からこれですか!」

「ふふ、いいでしょ別に。これから歌わないとカラオケに来た感じしないもん」

後輩から渡されたマイクを左で持ち、右手は軽く拳を握る。

これでしばらくは私も舞える。

今日限りの、私の伝説は、神話はまだこれから紡がれるのだ。


それでは参ります―――。


「♪残酷な天使のように~少年よ神話にな~れ~」

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