26日目 大掃除
彼曰く、今年のいろんなものを総決算。
***
年末、つまり今年の終わり。
年を越す前に我々にはやらねばならんことがある。
私はここに人生をかけているといってもいいだろう。
あらゆる知識、あらゆる能力を駆使して、部屋中の埃と汚れと穢れを取り払う大仕事。
それが年末大掃除。
まずは水回り。
一人暮らしにとって水回りの掃除は一番おろそかにしがちだ。
面倒なものを後々に残す性格もさることながら、臭い汚いのイメージが強い。
週に1回、定期的に掃除をするだけでだいぶ楽になるというのに、土日に出かけたり平日は忙しいを理由にサボること半年以上。
手を付けるにはそれなりの覚悟と勇気が必要なほどの惨事がシンクの下に広がっている。
「今からここに手を突っ込むのか・・・」
ゴム手袋の冷たい感触が手を覆う。
こすり掃除と残飯ネットの交換、蛇口、シンク周辺の拭き掃除。
大まかに分けるとこのあたりだが、すでにやめてしまいたい。
だがここで逃げたら絶対にやらないから確実に、今やらないといけない。
生唾を飲んで、手に響く冷気に耐えながら、生々しい感触をひたすらにこすってごまかす。
牛乳と油を混ぜて、米のとぎ汁で薄めたような濁った匂いに鼻を曲げながら、第一関門を突破。
働いてくれていた換気扇を止めて取り外し、エアコンフィルターとともに風呂場に持っていく。
ざっとぬるま湯で流してこすり洗いをしたら、そのまましばらく放置して乾燥させる。
風呂桶や壁の掃除はシャワー浴びるついででいい、先に他のところをやろう。
次に廊下と玄関。
簡単な掃き掃除で埃をかき出し、靴とかは外に避難。
頻繁に触る小物置き場はあまり汚れないけど、この際だからしっかり水拭き。
そのまま靴箱を拭いて、玄関の取っ手とか細々した気になるところを拭いていく。
ある程度終わったら一番大きな難関、リビングだ。
まずは押し入れや引き出しの整理。
この1年で買った雑多なものを選別し、いらないものはゴミ袋にまとめる。
これが一番時間かかる。
どんな意図で買ったかも覚えていない大きめの布。
その場のノリで買ってしまったであろう全く着ていないスウェット。
ただの置物と化してサーキュレーターに立場を取られた扇風機。
なぜそこにあるのかもわからない未開封の段ボール。
一つ一つ点検して選別していく。
そのあとは部屋全体の埃を落として、家具や置物をきれいにして掃除機、拭き掃除をして、足りないものを補充、買い出しして終わり・・・になるはずだったのに。
案の定、物の整理で懐かしい漫画を見つけてしまい、1巻、2巻と巻数が進んでいったと思ったら、気づいたら3時間経っていた。
『舞妓さんちのまかないさん』『トリコ』『チェンソーマン』『少年のアビス』
『君に届け』『夏目友人帳』
少年漫画少女漫画ばっかやないか。
本当なら買い出しから帰ってきて、晩御飯を食べている時間なんだけどなぁ。
・・・今からやり始めるとご飯が遅くなるから、先にご飯会に行くかぁ。
外に出しっぱなしにしていた靴やらなにやら、埃をはたいて中に入れるだけはして、コートを引っ張り出して出かける。
何となく想像していたオチになってしまったがそれもいい。
空気が冷たい、でもちょっと暖かい。
さっぱりとした陽気を残した夕暮れの街を歩きながら、きっとこの後も漫画を読んで寝落ちする未来を想像した。
予想は半分当たった、とだけ言っておきましょう。
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