19日目 いとこ

彼曰く、急に連絡してきて、すぐやってきた。


 ***


いとこが来た。

何年か前に親戚の七回忌で顔を合わせたときはまだ学生だったはずだが、突然東京に来るという。

どうやら会社の研修でこっちに来る必要があったらしい。

今年の4月に入社したとのことだから、すっかり研修なんて終わっているものだと思っていたが。

彼の入った会社は段階的に研修を行うスタイルらしい。

前時代的というか、型にハマっているというか・・・。

どういう業種かは聞いていない、そこまで話すようなことでもないし。

私が何をしているかというのも、彼には直接話していない。

どうせ親戚間では子供の情報が勝手に出回るのだから、言わなくても知っているだろう。

コロナ禍で帰省する機会がめっきり減った私は、彼がついこの間まで大学生だったことさえ知らなかった。

大学時代から親戚に会う機会が少なくなって家族のこともあまり把握していないのだから当然だろう。

それに言いたかったら言ってくる、彼はそういうやつだ。


今は大阪にいるという。

本社も向こうで、自分の好きなことをやれているらしい。

それはとてもいいことだね。

玄関で久しぶりの対面を果たして早々、冷蔵庫のビール缶を勝手にあおり、仕事の大変さと楽しさを自慢し始めた彼にそう言った。

満足そうな笑顔を向けた彼を連れて、最寄り駅近くの定食屋でご飯を食べた。

以前に行こうとして食べることができなかったから、緊張も相まっての訪問だったが。

東京に出てくるのが初めてのいとこに紹介するのであればいいところを、と思っていた分、ボリュームたっぷりのおかずとご飯が出てきたときには安心した。

豚の生姜焼きで米をかっ食らういとこの食いっぷりを見て、心なしか優越感。

彼にも自慢できるものが、私にもあったことが嬉しかった。


昔は親戚の家でよく遊んでいたけれど、大人になって疎遠になった人とは何を話せばいいかがわからなくなる時がある。

このいとことも昔は裏庭で虫を捕まえたり、バーベキューで肉の取り合いをしたりと、仲良くしていたものだがすべて懐かしい記憶になってしまった。

ちゃんと話せるか不安だったが、大阪と対極の東京にいるという対抗心が昔の私を呼び戻したらしい。

「「おかわりください!」」

綺麗に空になった器が2つ、店主の前に出される。

「なんだ、ちゃんと姉ちゃん元気じゃん」

「なにをぅ、まだまだ食べれるんだから。負けてらんない」

笑顔の男女が2人、互いの食べるスピードをひけらかしながら和やかな夜ご飯の時間を過ごしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る