18日目 冬風

彼曰く、木の葉舞う、心躍る。


 ***


冬らしい天気が続いている。

青空の青が突き抜けるように目に入る。

ピンと張り詰めた空気を、そのまま薄く伸ばしたような天井が頭上にある。

空気を吸うたびにその青さと白さが浸透してきて、自分の存在も薄く張り詰めてきているように感じる・・・のは気のせいだろうか?


今日は友人とご飯に行った。

職場で知り合った仲だからときどき他人行儀になることもあったけれど、最近はそうでもない。

気の置けない関係になっているんじゃないかなと思っている。

お互いに突っ込んだ話をしないし、どちらからとも聞かないようにしている節があるからいまいち仲良くなっているのか自信がなくなるときがあるけど。

でももう少ししたらそれもなくなるんじゃないかな。


私は焼き魚定食、友人は刺身定食。

スズキやアマダイ、カワハギと店員のお兄さんが刺身の説明をしていたが、多分ちゃんと覚えてない。

それはそれとして刺身を口に運んで舌鼓を打つ。

「刺身すごい美味しいよ!」

「やったね、新鮮そうだもん。さすが魚料理がちゃんとしているお店は違うね」

「うん、ぷにぷに~」

一切れ一切れ大事そうに食べる顔は幸せに包まれている。

それを見て私も楽しくなる。


今日のお店は友人が行きたいと言ったお店で、私自身は訪問歴アリ。

一度しか来たことがなく、刺身定食は初めてだったけれど、大した心配もせず、予想通りの美味しさだったようだ。

和やかな空気を纏った笑顔が物語っている。


ちなみに刺身の新鮮さをぷにぷにと表現する人を、人生で初めて見た。

その擬音は正しいのだろうか・・・。


正解のない考えを頭を端に追いやって、短いランチの時間を堪能する。

職場での知り合いというのもあって、どうしても仕事関連の話になりがちだが、こういう場でもないと私は人と話さないので、大事なアウトプットの時間だと感じる。

持つべきものは良き友人、と母に言われていたのに、良き友人が何なのかわからないまま大人になってしまった私には、気を許して話すことのできる友人は少ない。

目の前の友人も、完全に気を許すことができるわけではないが信頼は寄せている。

相変わらず定義はわからないけれど、きっと良き友人なのだと思う。

刺身をおいしいというやつに悪いやつはいない。


話がひと段落したところで店を出る。

先に道に出たところで待っていると、ワンピース姿の友人が出てきた。

以前に話したときにお気に入りだと言っていたターコイズグリーンのスカートが揺れる。

私のことを大人びているという友人だが、今日の友人だってきれいめな服装をしている分、大人びて見える。

冬は人を大人っぽくする、なんてことをイケイケな大学の先輩が言っていたが、まさに目の前でその魔法にかかっているのかもしれない。

冬らしい風が吹き、足早に歩き始める。

路傍に寄せられた木の葉が舞い、足元で小さく合奏をして去っていく。

「寒い寒い!」

「いや~すっかり冬よ、もう今年もあと2週間やし」

「そんな悲しいこと言わないでほしいわー」

「でも事実やから」

二人してコートに身を包み、風の向かう先に歩いていく。

背中を押すように吹く風は、少し弱まったと思ったらまたひと際強くなっての繰り返し。

2021年の終わりまでの大変さを予兆しているかのようだ。

「今年もあと少しかー」

白い空気を吐き出して、軽く頭を起こすと、同じ歩調で歩く友人が首をかしげて言った。

「また来年もよろしくね」

かわいらしい口元から白い歯をのぞかせる友人はすでに今年の悩みなんかないらしい。

うらやましく思いつつ、次にご飯食べにいくときの店は何にしようかと頭の端で考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る