28日目 出遅れ

彼曰く、出遅れてしまった日。


 ***


いつものようにカフェに行く。

いつもの時間に出たはずなのに。


今日はいつものカフェで席を見つけられなかった。

言葉遊びをするなら、席は見つかった。

当然だ、席がないことなんてないんだから。

正確には「空席」が見つからなかった。


いつもなら多少の空きがある時間帯である午前11時。

少し出遅れたかと思って左手首をちらと見たが、わずかに10分ほどいつもよりも遅いだけ。

今日も冷たい風の吹くなか、太陽は燦燦と光を注いでくれているけれど、暖かさは感じなくなってしまった。

暖かさをも吹き飛ばしていく素早い空気。

私の前で一枚の木の葉が丸を描きながら明後日の方向に流れていった。


仕方ない、どうしようか。


店の奥まで歩いて全体を見渡したが、席を立つ気配はなかったので来た道を引き返す。

そのままエスカレーターに向かいながら、向かうべき店を考える。


下の別のカフェに行くか?

それとも時々行く地下のカフェにしてもいいな。

でもどっちもWi-Fiに回数制限あるんだよなぁ・・・。


ビルから出て駅の方にそれとなく向かいながら、今日の家をどうしようかと考える。

と、頭をよぎった別の店。

ここは吉祥寺、カフェなんて腐るほどある。

その中でも私がよく利用するスタバに関しては・・・。

なんでか知らないけど6店舗もある。

なんでこんなに一極集中しているのか。


隣の三鷹には1軒あるけど、反対隣の西荻窪にはない。

さらに向こうの荻窪に行ってようやく2軒。

均せば1軒ずつで戦闘力で言えば変わらないのだ。


ただ若者のよく利用する街だから、という理由だけで6軒も展開している理由にはならないと思う。

スタバにはほかにない魅力があるのだ。

それはコーヒー自体だけでなく、座りやすいソファや整えられた内装であったり、丁寧な接客であったり、期間限定商品やスタバマークの付いたマグカップや水筒などのアイテムであったり。

様々な要素が合わさって、スタバという空間が成立している。


ここには居るだけの価値がある、それがスタバというものだ。


そして種々様々あるスタバにも、顔色がある。

私のいつも行くところは人が多く訪れる一方で、居座る人も多い。

店に入るまでに、店から出ていく人も多いけれど、そのすべてが利用し終えたわけではなく、席が空いてなくて諦めて出ていく人も多い。


足を向けるのは駅前店。

北口側にある、唯一商業施設に入っていないテナント。

ここに来るのは随分久しぶりだけど、意外に人の回転が多いイメージ。

入ってみれば、期待通り少し席が空いていた。

今日はまだ運がいいらしい。

運が悪いと席に座れないこともある、宣言が明けたのも大きいかな。


たまには別の場所に行くのもいい。

出遅れていつものパルコ店に行けなかったときはこちらに避難するとしよう。

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