26日目 飲み(3度目)

彼曰く、お酒を飲みに行けるって素晴らしいことだなぁ。


 ***


またも飲み会、今月3度目。

私らしくない、実に。


お酒に強くない私はすぐに酔ってしまう。

お湯に入れたゆでだこのように、酒を入れた瞬間すぐに真っ赤になる顔は、わが物ながら恥ずかしいものだった。

一方でほかの人たちからすれば「酔っているのがすぐわかるからいいと思う」だという。

不思議なものだ、一緒に飲んで楽しい人というのは私のようにお酒に弱い人よりも、お酒に強い酒豪のような人だろうに。

例えば大学時代の友人で、一つ年下の同級生。

もしくはバカ騒ぎして大量の酒を浴びるように飲んでいたサークルの先輩たち。

ああいった人種の飲み会に対するスタンスは最後まで理解することができなかったけど、一つだけ共感できた点がある。


飲み会という場を楽しむことができる人がいることが大事なのだ。


一緒に飲みたい人がいる。

普段から頻繁に会うわけではないけれど、何をしているか気になる相手。

久しぶりに会うと、昔話に花開く。

最近挑戦したことを聞いて一緒に盛り上がったり、結婚して祝ったり、事業に成功して一緒になってうれしくなったり、大変なことに巻き込まれた苦労を思って涙したり。

「めっちゃ面白いじゃん!」

「そうなの!知らなかった、おめでとう!」

「やったね、また夢に一歩近づいたな」

「そっか、つらかったね・・・。でもまた頑張れるよ、君ならそんな気がする」


誰にでもある、普通の日常。

そんな普通を照らしてくれる温かな灯り。

雑多な人の声、店から漏れる鐘のような音。

どよめき、ざわめき、足音、衣擦れ。

人の営みのすべてがそこに詰まっているようで、その場にいることで何かが変わるような気がした。


いつしかそんな場に行くことも少なくなり、一人で過ごす夜が多くなった。

以前にもあった、何も珍しくない日々が、いつのまにか当たり前のものになった。

それが、何となく寂しかった。


事態は収束に向かっている。

世間の監視の目は薄くなり、あのころの自由な日々が戻りつつある。

奇声も、歓声も、嬌声も、怒声も、様々な人の声であふれていたあの場所が活気を取り戻しつつある。

自分以外のたくさんの声を耳にするたび、帰ってきたんだと感じる。

飲食店を利用できるって、素晴らしいことなんだなと。


互いの頑張りをねぎらったり、うれしいことを報告したり、言えない思いを伝えたり。

飲食店には人生を彩る瞬間を照らしてくれる。

楽しい時間を飲食店で過ごす、その日常に私は改めて感謝したい。

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