24日目 クリーニング
彼曰く、クリーニングなんて、なんだかリッチな感じがする。
***
いや絶対気のせいなんだけど。
間違いなく気のせいだとわかっているのだけど。
なんとなく、クリーニングを利用していいのはもっと上級国民の人だと思っていた。
上質な生地、上質な糸。
上物のコートやセーター、レザーのジャケットやスーツ、喪服。
そういうちゃんとしたものだけしか相談できないと思っていたのだけど、私の感覚が狭かっただけらしい。
初めてクリーニングという言葉を聞いたのは確か中学生のころ。
今の3分の2くらいの身長しかないのではないかと思えるほど、成長期到来が遅かった私には制服が大きかった。
制服を着れば腕の長さが足りない。
腰にかぶさるようにお腹を覆うベルトループ。
心なしか、肩にかかる重さが増えている気がするのも、私が小さいからだと思っていた。
間違いなく、私は制服に着られていた。
歩くたびに少しずつ肩が外れていく感覚に堅苦しい気分になる。
私のスーツ嫌い、制服嫌いは着始めたころからあったんだろうと思う。
あんなきっちりしているものを好きこのんで着る人たちの気持ちがわからなかった。
みんなが一様に同じ服を着ている空間。
誰もが同じタイミングで登校してきて、図ったようにそろえられたシャーペンや筆記具入れ。
同じものを持っていないと何かと注目され、奇異な目を向けられ、息苦しい。
それが学校という狭い世界だった。
まるで収監所のように冷たいコンクリートの壁に、気持ち悪いほどに鈍く光る緑色の床。
リノリウム、というのを大人になって知ったけど、知ったところであの空間をいい場所と思ったことはない。
なんであの空間に子供たちを閉じ込めて飼育しようと思ったのか。
これが、かつて栄華を極めた日本帝国の上層部が考えた結論とは。
いま思えば、今の日本を造り上げた大人たちも、同じように飼育されて成長しているのだ。
服だけでなく、人間の考え方もすべてクリーニング出来たらいいのに。
そんなファンタジーなことを時々考える。
仕事や友人などの心に巣食う病魔のように意地汚い嫉妬や嫌悪、無駄なしがらみをすべて取り去って、何もなくなった心で世界を見渡す。
悪感情との縁を完全に切った心に映る世界は、どれほど綺麗だろうか。
洗脳に近い行為ができるようになる時代は、きっとまだ来ない。
でも多分、できたとしてもリッチな人たちからだろうな。
そんな渇望の世界がやってくるなら、クリーニングくらいはもっと身近なものだと思ってやってみてもいいかもしれない。
家の近くのクリーニング屋に行くまでに、無意味な思考で頭を浪費しながら、この感情もクリーニングしたい、なんてことを思っていた。
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