22日目 26歳(裏ver.)
彼曰く、その日、梅氏は思い出した・・・。
***
私は大した人間じゃない。
そんなことを日記で書いた気がする。
記憶をなくしたわけじゃない。
こういう風に書いとけばとりあえず書き始めのとっかかりになるから。
思い出している風に書いているだけ。
具体的に言うと、人差し指を唇から指2本分の間を開けてほほに当て、小首をかしげながら右上の方に視線を投げる感じ。
で、出た~~、あざとかわいい系を装って萌え袖ニットから人差し指だけのぞかせて、人生何度目かわからないとぼけ顔をSNSタイムラインに惜しげもなく披露しようと自撮り写真撮るだけ撮って満足するやつ~~
いつも通りにカフェでパソコンとにらめっこしながら、その妄想を浮かべてマスクの下で笑っていた。
自分が誕生日であることをひけらかすことはない。
自己承認欲求を持て余す路線にはいなかったらしい私は、薄目を開けて「誕生日おめでとう!」LINEが来るのを待ち構えているのだ。
いつもはモバイル回線を切って外出し、1時間で更新する必要のあるカフェWi-Fiしか使わないのに、今日に限って無駄にモバイルWi-Fiをつけている。
都会の端なので4Gにて、通知も来ていないLINEやTwitterを開けてみる。
3秒、画面を眺めて、上にスワイプ。
30歩進んでリピート、ここまでテンプレ。
トラベリングが適応されないのをいいことに、カフェにつくまでの間に画面を開いた回数実に37回。
そう、これがコミュ力消極的なソシオパスの誕生日過ごし方なのである。
ちなみに朝一で確認したおめでとうは母親。
もう2年近く帰ってないのにちゃんと子供の誕生日を祝うあたり、たぶんあの人は私のことが好きなんだと思う。
謎にハートが入っているし、間違いない。
しかしこのハートの意味が何かはわからないし、今年も帰省するつもりは今のところない。
すまんな母上、私には過ぎた期待だったようだ。
カフェでは溜まってしまった日記をまた書いて、服を買おうとZOZOTOWNを覗いた。
会員登録からし始めたけど、ちょうどメインと違う趣味用のメアドを新しく作ろうとしていたところだから、どうしようかと悩んだ結果、気になってるニットをカートに入れるだけで終わった。
どうやらそこでやる気も売りに出されてしまったらしい。
大テーブルの向こう側を通り過ぎるイケメンかわいいカップル、スタイル抜群女子、ニットとスラックスのスキのない休日コーデ男子に目を奪われたのが原因だ。
なんで冬服は男女ともに魅力的に映るんだ。
肌が見えてるよりよっぽどそそる。
これが冬の魔法ってやつなのか・・・。
そう思っていたところに、仕事相手から連絡。
お願いしていた修正作業が終わったとのことで、確認ついでに資料回収に向かうことにした。
本当はユニクロとかGUとかにも向かおうと思っていたけど、午後から雨の予報に浮ついた心は落ち着きを求めていた。
そう、ここで回収に向かえば服を買うという行為を避けることができることに気付いたのだ。
どうしようか、少し悩んだ結果、会社に出ずに働くことを選んだ。
しかし私の頭上にはすぐ雨の予感が迫っていた。
向かった先で軽く挨拶し、そのまま帰宅しようとしたけれど、明日も雨なのであれば資料を濡らして出勤することになってしまうかもしれない。
それはいろいろと面倒だ、会社に持っていってしまえ
決意した私のほほに冷たい感覚。
駅への道を早足で進んでいた私には、何の感覚なのかわからなかった。
誕生日は楽しい気分になる。
英語で誰かが歌にしていた気がするけど、どの歌かは覚えてないし、結局会社に来ている私にはそれほど関係ないお話。
自分へのご褒美として鴨のローストとキノコのアヒージョを買って、雨に濡れる帰り道を急ぐ。
誕生日が雨なんて、運が悪いな
昨日の私ならそう思っていたかもしれないけど、吹っ切れた私にはなんのその。
顔にあたる冷たい感覚を火照る体で相殺しながら、小走りで横断歩道を駆け抜けた。
みなさん、いい夫婦の日をお過ごしください。
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