2021年11月
1日目 『ひらいて』
彼曰く、相手との心の距離感の難しさ。
***
『ひらいて』
原作・綿矢りさ。
好意を寄せる男子と、さえない少女との秘密の恋をうらやむ主人公の、不器用で高慢な人付き合いとその変化に視点を置いた、学園青春もの。
予告を見た時は「なんか全体的にピンク色だなぁ」なんて印象を持った。
ピンク映画という言葉の意味は分からないけど、これがピンク映画っていうのかな?と思った。
会社の映画友達と行くことにして、休日に見に行ったけど驚いた。
百合の要素が少し入っていたから。
私は短い予告しか見ていなかったからどういう内容かを予習せずにいた。
その方が先入観なく楽しめると思っているから。
別に百合に抵抗があるわけではないけど、それなりの心の準備とか、考え方とかがある。
映画好きの友達と違い、私はあまり映画の演出の意味とかを深く考える脳がない。
ある程度の事前知識や推測があって初めて物語を理解できる。
なら予習して来いよ、と言われそうだけど、この辺りは気持ちの問題。
興味のない話題について深く考えようとは思わないのが、私のいいところでもあり、悪いところでもある。
実際どうだったのかというと、面白かった。
エンタメ作品を選ぶ基準が「絵柄や内容が好みか、そうでないか」というものに偏重している私のアンテナにとって、あまり引っかからないタイプ。
青春ものでありながら、ハッピーエンドが待っているわけでもなく、全体的に陰鬱な場面があり、それとは対照的な明るい場面がその暗さを助長しているような。
解釈次第で気持ち悪さが残りそうな、底意地の悪い主人公への嫌悪感すら浮かんできそうな内容だ。
でも、これはつまるところ現実的なことなんじゃないかと思えた。
エンタメ、というものを意識すると、どうしてもハッピーエンドになったり、主人公にとって都合のいい展開、結末になりがちになる気がする。
でもこの話はそういうラッキーな展開というものがなく、まるでミステリーのように不穏な空気が主人公をいつの間にか包んでいる。
どうしようもない現実を、どこか達観した態度で見ている。
なのに何となく受け入れがたくて、自分の領域を守りたくて嘘をつく。
自分だけの世界に入った人をうがった見方をしている主人公こそ、自分だけの世界に入って閉じこもってしまう。
『ひらいて』というタイトルとは逆に、ここでの登場人物たちはどこか閉じている。
それは”心”もそうだし、”自分の世界”も、”誰にも知られたくない関係”も。
それを”ひらいて”、相手に見せたり、深く知ることがどれだけの覚悟のもとにあるのか。
人間関係を構築したり、破壊したりすることの難しさを改めて認識させられる。
友人の言葉を借りれば、女子二人と間に挟まれる男子との価値観の違いが家族との関係性に表れていたという。
確かに家の場面では、女子は母親、男子は父親としか話していないし、片方は登場さえしない。
主人公の母は父親のために様々なお菓子を作り、もう一人の女子の母は梅のゼリーを作ったり大鍋を用意するなど、父親、もとい家族のことを思いやる描写が多い。
担任との三者面談でも自分から意見をぶつけたりはせず、同調したり受け入れたりする寛容さが見て取れる。
対して男子の方は父親との仲が上手くいっていないのか、三者面談でも父親の方が一方的に話す場面があった。家業である蒲鉾を面談に持ってくるだけでなく家でも供するあたりに凝り固まった考え方が出ている。
ここに男女差別の意味はないと思うが、料理の描写でこの物語での男女への考え方を表現しているのは面白いと思った。
鑑賞後、なんとなく納得している自分がいた。
何に納得したのかはわからない、でも一つの考えが腑に落ちた感触だった。
自分本位の考え方をしがちな最近の私に対する警告だったのかもしれない。
そう思うと、一度怒られたくらいで落ち込んでいる自分が馬鹿らしくなった。
ちょっとだけ、ときどき理不尽なこの世界に心をひらいてもいいかもしれないと、大人ながらに思った休日だった。
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