9日目 カフェ④

彼曰く、どうでもいいはずのことがどうでもよくなくなってくる。


 ***


カフェにいると気がめいってくることがある。


人にはお気に入りの場所というものがあって、そこでは気の休まることが多い。

というか、気の休まらない場所がお気に入りというのも変な話。

人間は自分を大切にしたい生き物だから、自分の心休まるところの方が安心感を感じる。


何も変なことは起こらない、事件に巻き込まれることもない、怪しい人間もやってこないし、嫌な対応をする店員がいるわけでもない。

ほどほどの距離感で接する店員に、いつもと変わらない味のコーヒー、ほかの客も話しかけてくるわけでもないし、放課後の教室のように大声で話す高校生もいない。


心がざわつかない、とでもいうのだろうか。

変に刺激を受けない分、余計なことを考えることがない。

店内広しと言えど、自分以外のことは気にしなくて済む。

まあ、つまりは自分の中でいかに管理できるかが問題なわけで。

それ以外は問題視するに値しない、はっきり言って気にするだけ無駄なことなのだ。


でもそうじゃないときもある。

いくら自分のことに集中できるからと言って、ずっとそのことに頭を使っているのはなかなか疲れてしまう。

これも人間だから、と断言していいかは難しいけど。

何せ人間以外のデータがない。

少なくとも人間に飽きっぽい性質があるのは、権威ある研究データや論文なんかで結論付けられていることも多いのだ。


朝の時間が集中できるとか、マルチタスクよりシングルタスクをいかに効率よく回すかとか、集中して脳を使うことができるのは平均して15分だとか。

いろんな結果が出ているけど、すべての人に当てはまるわけじゃない。

あくまで統計的に言ってそういう人が多いという結論に導かれただけ。


わざわざなんでこんなことを言うのかっていうと。


ま、今の私が集中できていないということで。


他の人の動きがどうにも気になってしまうのよね。

座る席に問題があるのはわかる。

大きなテーブル席だし、人が立つと逐一動きが視界に入るからふと見てしまう。

もうこれは動物の自然な反射だから抑えられない。

無理に抑えようとすると脳の容量を「視界にとらえたものの動きを追う」という無駄なことに消費してしまう。

危険のない場所だと思っていても、私の中の動物的な反応がそれを認めないらしい。


そして今日はこの消費量が多い。

いろんなところに気が向いてしまう。

おかげでやりたいと思っていることがなかなか進まなくて困る。


カフェは気の休まる場所だけど、自分のメンタルが安定しているときが一番いいんだなぁと、忙しくなりつつある仕事が待つ月曜を思いながらため息をついた。


ほら、また気がめいってる。

元気、取り戻さないと。

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