3日目 思索
彼曰く、どんなに強く思っても。
***
今日もなかなか届かない。
自分の想いをつ立てるということは、簡単なようで難しい。
考えていても違う言葉が出てしまったり、自分の想いとは反対の言葉が浮かんでしまったり。
結局口にまで届くころには反対の言葉になって生まれてきたりする。
言葉足らずな自分にはわからない。
何が足りていないのか、そもそも足りているのか。
自分の想いは届くはず、と思っているのに。
届いてほしいところにまでは伝わらない。
伝わってほしい人に伝わらない。
伝わってほしいように伝わらない。
自分の言葉の真剣さ、自分の想いの大切さ。
想いの強さはあるはずなのに、伝わるまでの言葉には何もこめられないのかしら。
人の言葉はとても考えに及んでいるとは思えない。
教わった通りに話しても、違うようにとらえられるし。
言われたとおりに伝えたところで、その真意が伝わることも難しい。
字面だけ伝わればいいのに、それが言葉として口出された途端に意味が変わる。
文字と言葉の違いを知ると、世界の歯車の固さを感じる。
伝達は世界を、組織を円滑に回すために不可欠なやり取りで、取引でもある。
心と心の伝達、事象に意味を持たせて関係を持たせる。
人付き合いの始まり、仕事の始まり、特別でも、特別でもないものでも、様々。
世界は思っているよりも複雑に絡み合ってできている。
ふと、歌にのせて自分の想いを伝えてきた昔の人のことを思う。
今と違い、簡単に会うこともできない時代。
庭の前栽にこっそり隠れ、想い人のもとにやってきて口遊む。
身分を越え、時間も構わず、短い詩に想いを乗せる。
優雅で、きらびやかで、密やかな想いの丈は、字面よりも長いものに感じる。
それに対する返答もまた雅、短くても乗った想いは確かな重さがある。
小さく流れるように書かれた文字に、いつまでも残る想いの熱。
その熱量は、時代を越えて、想い人以外にも伝わるほど。
一滴の色水が、流した川から海に流れ出てもずっとどこにあるのかわかるような。
あのころの人たちは何を思っていたんだろうな
そんなことを考えながら今日もひたすら電話をする。
想いを伝えるって難しいな
仕事の面倒くささを感じながら、やってこない仕事相手の連絡帳を一瞥する。
薄目でぼやけたその名前は、なんだか存在感がなかった。
グズめ
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