5日目 『新聞記者』
彼曰く、これは国を護る仕事だ。
***
『新聞記者』藤井道人
昨年の日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得したという作品。
望月衣塑子の同名小説の映画化。
新聞記者の吉岡エリカと内閣情報調査室のエリート官僚・杉原拓海とが出会い、国を揺るがす大学新設計画に関する極秘情報に迫る。
この作品のテーマはとても奥深いもので、簡単に触れていいものではない。
だが私たちの見知らぬところでひそかに進められているかもしれないことでもある。
一般人である私たちは普通内閣の情報にまで耳は届かないし、目には入らない。
手にもつかない極秘情報にまで意識が向くことはなくとも、真実が明るみに出るとき、人はこぞってその話題を口にする。
触れてはならない事実に目を向け、自分以外の誰かにも届けるために命を張って危険な道を歩もうとするもの。
自分の信念を信じ、世の中のすべてを疑って物事を見る。
それが”新聞記者”という職業の核である、そういわんばかりに吉岡は官僚に何度も突っ込んでいく。
肝っ玉の並外れた人だ。
吉岡役は韓国女優のシム・ウンギョン。
題材がコアなあまり、日本人女優が誰も受けたがらなかったとのことで起用されたらしい。
アメリカ生まれで日本に来てほどない日系人という設定がうまく働いていて、それほど違和感がない。
日本の制度について聞いているシーンがあったのもそれを裏付けるかのようだった。
一方でエリート官僚の杉原役を務めるのは松坂桃李。
元上司の事件を機に自分の仕事とプライドとの間で揺れる葛藤に苦悩するキャラクターを演じきっている。
自分の仕事を全うしようとしているけれど、自分の上司を苦しめている事実を知る。
官僚という仕事はとても息が詰まる。
映像全体で表現するように、杉原の職場のシーンは殺風景な仕上がりだ。
陰鬱で、色彩のない、一言で言えば味気ない場所であることを助長するような画。
描く内容も暗いものだから見ていて爽快感は正直ない。
でもこれが現実にあるものなんじゃないかという予感を起こさせる。
例えば内閣閣僚の不倫騒動については、女性側に問題があるとして抑え込む。
機密情報漏洩に対しては担当者を罷免してでももみ消しを図る。
不都合な温床の塊である政権の裏側を赤裸々に描いていて、しかも妙にリアリティがあるものだから、おどろおどろしい感覚が抜けない。
両主人公はそれぞれの思惑の中で動き、そして目的を一致させる。
最後までプライドがぶつかり合う、気の抜けない物語だった。
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