27日目 人を知る

彼曰く、君が他人を見るとき、他人もまた君を見ているのだ。


 ***


自分が何か、ということは大体の人間が考えることだ。

かくいう私もその一人。

なんでこんなめんどくさいことを、と思ったけれど、どうやらこの世界ではそれを知っていないと認めてもらえないらしい。


私の就職活動はゆっくりと始まった。

何となくマスコミに行きたいなーと思って、でもそれだけだと怖いから、何となく別の業界ものぞいてみて。

ITベンチャー、企業広告、銀行、航空旅行、商社、ゲーム…。

早いか遅いか、3年の夏にはインターンラッシュで仲間の中にスーツを着る人間が増え始めた。

私も少しずつインターンを考えながら動いてみたけど、やっぱり落ち着かないというか。

腑に落ちないなぁと思いながら時間だけが過ぎていった。


私がやりたいことは本当にこれなのか。

人を動かすことが楽しいのか、物を作ることが楽しいのか、数字を出すことが楽しいのか。

いろいろと体験する中で感じたのは、所詮社会にあふれている仕事なんて誰にでもできること、肩書なんて替えのきくお飾りでしかないということだった。


どれだけ偉く見せようが同じ人間。

頑張りはわからないけど、人となりはわかる。

人を貶めようとする人、真剣に話を聞いてくれる人、聞きたいことに対して遠回りな答えしかくれない人、知りたいことを濁して答える人。

肩書がよくても、目に見える性格がよくなければ信用できない。

でも会社にとっては利益になるから出世していく。

世の中はずるがしこい人間が生きやすいようにできているらしい。


じゃあ私の世界は?

私が気持ちよく生きていくにはどうしたらいいの?


私は信頼できる友達が少ない。

大学からは家族もそばにいないから会話も少ない。

家に帰れば一人、テレビの音と換気扇の音だけが私の寂しさを埋めてくれる。

おかげで話すことに自信がなくなったし、本音を話すことも、本音を聞くこともできなくなった。


この世界の正解はいったい何なのか。

答えを知っている人は誰なのか。

そもそも存在するのか。


わからない。

私は私のことがわからない。

人から見られる自分、自分が知りたい自分。

何が正解?何が真相?

誰か知っている人はいないの?


知りたい、私は私が知りたい。

それを教えてくれる人を知りたい。

誰か信じられる人が欲しい。


今日も私は、信じられる人を探して生きている。

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