16日目 やってられるか

彼曰く、世間が自分に勝手に課した試練への反抗。


 ***


やってられるか。


なんで私が別の人間に仕事のやり方なんて教えにゃならんのだ。

私は仕事の仕方がへたくそだ。

何かコツがあって、それをもともと知っていたわけじゃない。

自分なりのコツを自分でつかんで、工夫しながらやってきただけだ。


外から見たら私は忙しくても冷静でいる姿が印象的だと思われているらしいが、それは私が仕事ができるからじゃなし。

考える時間を作れるように、余裕を持てるようにするために、自分の仕事を調整しているだけだ。


基本的に私は仕事をしたくない人間。

自分の興味のないことについてはできるだけさぼれるようにしたい人だ。


もちろん例外はある、この職業を生業としている以上、何かしらの成果は見せないと評価につながらないし、そもそも仕事をしていないと思われてしまう。

いくら面倒くさいからと言って、仕事をしていないから給料はナシ、なんてされてしまったら生活できなくなってしまう。

それは困る、私だって人並みの生活はしたいのだ。

必要最低限の仕事は、自分が生きるためにも当然する。


ほかにも自分が楽しくてやっている部分が、仕事の範疇にも存在する。

私で言えば成果物が上がってくること、映像が完成品に近づいていくこと、あとは相手によるが人と話すこと。

上がらないものを追いかけるのは苦手だし、きっちりとしたスケジュールを話すのも自分がルーズだから向いていない。

ここは人それぞれだと思う。


私がさぼってもいいと思っているのは、実はこの部分だったりする。

結局のところ自分がやれれば一番早いのだけど、私には技術がない。

個人の力で映像を作るには知識も経験もスキルも、何もかもが足りていない。

あるのは根気くらいのものだ。

自分ではできない部分は技術を持った人間にやってもらうわけだが、この人たちは私ではない。

私のようにこの仕事だけをやっているわけではなく、別の仕事をやっている人だっている。

納期が被ることばかりなので、私の仕事に時間を割いてくれるかはわからない。

半々、といったところだろうか。


ここはもう我慢強く交渉して、折れさせれば勝ち、ダメだったらまた我慢。

いずれにせよ、その間に私たちにできることは何もない。

せいぜい次の工程の下準備くらいだ。


先のことまで見えていれば自分の時間は作れるし、余裕も生まれる。


その先のことを見れるようになってからじゃないと、この仕事は乗り切れない。


だから、全体のイメージがついていない人間に「余裕を持って仕事したいので教えてください」と言われても無理だ。

自分なりの工夫で見て、聞いて、感じてくれ。


第一、私は人に教えるのが大嫌いなんだ。

下手だし、やりたくないことだから。

だから私は、ほかの先輩がさりげなく教えてくることに便乗する。

私がやれるのは、せいぜいほかの経験のある人間を動かすくらい。

さぼることは勝手に覚えて実践してくれ。

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