15日目 なれない

彼曰く、人付き合いって難しいわね。


 ***


完璧主義って、ただの夢物語。


誰かを目標にしてのし上がりたい。

大きな企画を立ち上げて、誰よりも早く昇進、成功したい。

そのためには一点の曇りもない下準備。

完璧な未来予測、あらゆる想定のもとで考えられる結果、それらを可能な限り頭から引き出して、どういう対処をすればいいのかを考えておく。

かつ、どんな問題が起きた時にも自分を崩さずに対処できるように動ける柔軟性、即応能力、感情のコントロール。

いかに事態が変則的になろうとも、平静さを損なわずにそつなくやり過ごすことができる。


「そんな夢みたいなことできるのか?」


たいていの人がそういう感想を持つだろう。

その感想を口にした時点で、もはやそれは夢なんさ。


夢を現実にする方法はいくつかある。

自分の思うとおりに事が運ぶように人を動かす。

自分の考えている物語を別の形で描く。

自分の理想を押し通してついてこさせる。


適材適所、人には人のやり方がある。

人には人の乳酸菌、それと同じ。


でも現実にするには多少なりとも無茶を行わないといけない。

今の能力には過ぎた行為。

越権行為、というやつだ。


何かを成し遂げようというときには、悲しいかな、責任というものがついて回る。

世の中のすべての行為には責任がついて回る。

人間社会に生きている限りそれは避けられない事象で、受け入れなければならない事実なのだ。


多くの人間は夢をかなえるには自分の能力だけあればいいと思ってる。

私もそう、勝手に現実がついてきてくれるだろう、と。


甘い。

甘すぎる。

この前食べたチーズ蒸しパンケーキよりも甘いし、ついでに言えば軽い。


成し遂げて乗り越えようとしている壁は、そんなに低くない。

遠くに見える城は、手のひらで押し潰せるほど小さく、脆く見えるでしょう。

でも実際に近くまで見ればそんなことは無理だとわかる。

堅牢な城壁、頑丈に閉ざされた城門、自分の手では収まらないほどに壮大で圧倒的な城郭、それらを守る堀や城柵。

想像よりも堅固で、荘厳で、頑強な存在を目にすれば、いかに自分の存在の小さいかがわかるだろう。


これを突破するには工夫が必要だ。

正面突破できるほど簡単な城であれば攻める必要はない。

解決ルートの定まった城なんて作ったところで無意味だろう。


攻略して意味のある城を攻めてこそ、自分の知見を広められる。

今までとは違う考え方、ルート、支援や攻撃の手段、タイミング。

どれも現実に即したものがすぐに浮かぶわけじゃない。

たまたま当たれば運がいい、でもそれが連続で続くほど神に愛されている自信があるか?

もしこの世に神がいればの話だが。


結局神話も夢物語。

でもこれはよくできた夢物語だ。

人間にはできない、神ではないのだから。


神には神のやり方があるように、人間には人間のやり方がある。

すべてが思い通りになるとは自負しないことだ。



ということを、今年の新人に叩き込みたい。

考え方が180度違う人間を教えるのは難しい。

慣れない、慣れないんだよねぇ。

どんどんお菓子が進んで困るわぁ。

どこかでガツンと言わないとかもしれませんね。

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