9日目 予想不可能図
彼曰く、予想とは違うことしか起こらないのがこの仕事。
***
私は映像制作の仕事をしている。
この業界に予定調和はない。
予定していたこととは全く違うことも起こるし、予想していた通りのことも起こる。
人間の予想した世界なんて所詮現実に即したただの予測。
経験と知識に基づいて、視力と知能に頼って作られた小さな地図。
この業界ですごいといわれているのは予測が近い人と、その結果起こりうる事態への対応策をひねり出す思考の速さ。
結局この世界では予測ができたところで考えていたのとは違うことのほうが起こりやすくできている。
2割は思惑通り、8割は世界の運命力によって捻じ曲げられる。
経験則で物事が進むほど、甘くはできていないってことだ。
世界は予想よりも面白く、新しく、そして残酷に動いている。
クリエイターの動きはいつも予想とは違う方向に行ってくれる。
今日もまた一人、お願いしていた仕事が予想以上に早く終わってしまい、想定とは違う仕事を相談することになりそうだ。
映像を作ることはいろんな人の手間暇かけて行われる。
時間をつぶし、体をすり減らし、神経を削って、虚像をいかに現実に近づけるかに己のすべてを注いでいる。
それが実写でもアニメでも3Dでも同じ。
この世界で確かなのは予想通りに進むことと、予想外のことが起きることの二つがあることだ。
そして映像制作ではその二つが起き、時に予想外のことが予想通りの結末に豊かさをもたらしてくれるのだ。
この時の予想外は「なんでそんなことが起こるんだよ!」という害悪に他ならない面倒ごと。
自分に不幸が降りかかるようなことは起きてほしくないけれど、新しいことを迎え入れるにはどうしても残酷な現実を乗り越えなければいけない時が来る。
そして予想は「面白いものができた」、ただそれだけだ。
それだけでいい。
それまでの過程も、いい映像になっていればどうでもよくなる。
だんだんと癖になってくる変態さんもいるらしいが、その辺の性癖は人それぞれ。
残酷で大変なことがあっても、きっとその先には新しいことが待っている。
さあ、今日も面白いものが作れるように仕事をしよう。
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