4日目 唐突な終わり
彼曰く、ずっとこんな生活が続けばいいんだけどなぁ。
***
昼から始まる休日生活。
もうずっとこんな生活でいいんだけどぁ。
誰が仕事してないとか、誰のせいとか、私が悪いとか、もう全部どうでもいいんだよなぁ。
楽しいことだけやってればいいじゃない!それでみんな幸せなんだから!
理想論も何もなく、ただ夢と目先の幸福だけを享受する場所があればいいのにって、思うだけならタダ。
夢のことなら何を言っても許される世界でよかったと思う。
この世は今も誰かが死んで、誰かが生まれて、誰かが食われて、誰かが食らいついて、誰よりも生物絶滅に過敏になっている動物が誰よりも危機を引き起こしているんだ。
疲れる人間社会のことくらい、たまには忘れさせてくれよ。
そう自由に叫べる生活も、いつかは終わる。
この国で今の生活をしている限り、同じ生活は繰り返せない。
唐突な終わりを感じる瞬間が、誰しもあると思う。
あ、この人今私以外のこと考えてるな。
いまこの人、興味なくしたな。
こんなに大事にしていた水もあと2日分しかない。
旅行のお土産にもらった牛タン、5箱もあったのにもうあと1箱しかないや。
事の終わりはいつも突然、前触れもなく気付いてしまう。
私の”今”は、”永遠”じゃないんだなって。
私のGWも終わりが近づいてきている。
「このGW期間中ずっと1日1食外で食べることにしてたんよ」
友人との会話でその話題を出した。
ただ一緒に食べに行きたい、ひとりご飯もいいけどたまには誰かと食べたい、そんなふうに思って出た言葉だったけど、それが間違いだった。
(あ、そっか、もうGW終わるんだ)
過去形。過去の話。もう来ない明日。
唐突にそう思ってしまった。
そこからはもう早い。
夢幻に四散していた光が急速に中心に収束して、「2021年GW」っていうラベルがついて小さな星になる。
意識と思考が感覚に追いついて、もういけなくなってしまうんじゃないかという錯覚。
昨日まではすぐ手元にあったあの輝きが、もう届かないようになってしまうなんて。
話しながらちょっと悲しくなって、虚しくなって。
会話のトーンは落ちないけど、気分的に声のトーンは落ちた。
早く帰りたい、帰って買い食いしたい、そう思った。
あのとき出た言葉は別に間違いじゃない。
本心だし、常に思っていることだ。
あのタイミングで出したことで気分が少し落ち込むのは確かだけど、金輪際いけなくなるわけでもない。
自分のタイミングで行けるし、店がなくならない限りは毎日でも行ける。
生きるのは自由なんだから。
でもこの世の中、突然店が閉まることだってある。
今日の帰り道、家の近くのクリーニング屋が3店舗くらい閉まっていた。商店街でも「テナント募集」の貼り紙がまた増えている。
唐突な終わりは感じるだけじゃない、現実世界にもちゃんとあるんだ。
家について鍵を閉める。
「明日はどこに行こうかな」
唐突な終わりを感じた日の終わりの言葉は、それでもやっぱり自由だった。
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