25日目 眼鏡~その2~
彼曰く、思ったより心のダメージが・・・。
***
眼鏡を失くした2日目。
ひとまず日の光を浴びて起床。
昨日は現実逃避も込みで久しぶりに酒を飲んだ。
浴びるほど飲んだわけではないけど、久しぶりすぎてすぐに酔いが回った。
最後に時計を見た時間ははっきり覚えてないけどたぶん22時くらい。
その時間だといつもマンガを読んでいるかモンハンライズしているか、YouTube見ながら日記を書くか小説を書くかしている時間なんだけど、そんな余裕はなかった。
心の余裕はないけど、酒を飲む余裕はあった。
平日の困った時ように買ったはずの冷凍パスタもちゃっかり胃袋に入ったらしく、部屋に一つきりの机の上に皿が放置されている。
中本のカップラーメン、チョコパイ、スーパー総菜のハムカツ、カシューナッツ、oikosヨーグルト、檸檬堂のレモンサワーの空き缶に自分で漬けた梅酒の4L瓶。
一人暮らしサイズのローテーブルに所狭しと現実逃避の跡がある。
「きったねえ・・・」
感情を吐露するのは苦手なのだけど、自然に出た。
素直になった今なら好きな人に告白くらいできるかもしれん。
酒焼けした喉ではいい声なんて出そうにないから死んでも嫌だけど。
昨日の事件は気のせいで、何かの間違い、神様のいたずらで思わぬところに眼鏡が隠れているんじゃないか?
千と千尋の神隠しレベルでいつか戻ってくるんじゃないかしら、っていうのが今日なのでは?
自分に言い聞かせるように起き上がりながら何度もひっくり返したトートバッグを再度確認。
やっぱりない。
デニムジャケットの胸ポケットをもう一度まさぐってみる。
ないです、人生終了のお知らせ。
ここに来て、4月が始まったタイミングってときにまさかの誤算。
なんでやねん?
昨日100億回脳内で繰り返した疑問符が頭の中を駆け巡る。
いくら見回してもないことに変わりないからとりあえず何か行動しようと外に出ることにする。
こういうときのため、ではないけど、二代目の眼鏡を取っておいてよかったと思う。
カゴの中から引っぱりだしたケースの中には懐かしの太縁眼鏡。
思ったよりも男勝りなスタイルに見えて、ちょっと気後れする。
というか正直つけたくはない。
「今私の中でのトレンドは細いフレームなんだよなぁ」
などと贅沢を言いたいけど、見えないんじゃどうしようもない。
この世の中は見たくないものばかりだけど、目の前が見えないのは自分の危険に繋がっちゃう。
昨日の帰り道、少しだけびくびくしながら歩いたのを思い返しながら、昨日と同じ道を歩く。
昨日は夜だったし、ライトがないと探せなかったし、そもそも眼鏡がないから眼鏡を探そうにも見つからなかった。
今日ならまだ希望がありそう。
眼鏡を探す目の悪い人って、いま思うとすごくアホの子やん。
とりあえず会社までついた。
なかった。
少なくとも道すがらにはなかった。
日曜は会社に入れないようにロックがかかってるからこれ以上の探索は不可能。
昨日見たとはいえ、やはり可能性を残しているのは会社内しかない。
明日までとりあえず耐えるしかない。
耐えるしかないけどこの眼鏡で出社はしたくない。
殺さないといけないけど殺せない、カヲル君を握りつぶすまでのシンジ君みたいな気持ちで帰路につく。
夕焼け色が眩しい、目の奥が熱くなった。
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