24日目 眼鏡~その1~

彼曰く、本体はそっちじゃねえ!


 ***


私にとっての眼鏡は相棒みたいなもの。

中学2年生で初めてデビューして以来、ずっと付き合いがある。

一時期コンタクトレンズ姉さんに浮気したこともあったけれど、大学生になってからは普段使いしている。

バイトの時だけコンタクトにしていたのは内緒だけど。


それ以来眼鏡には少しこだわるようになった。

初代はZoff、二代目はJINS。

三代目のころはちょうど大学3年生。

ようやくオシャレに目覚め始めたころ。

目に留まったのが渋谷ロフトにあったOh My Glasses。

二代目は少し太縁で重たい印象の色だったので、気分を変えたくてメガネ専門店に行きたかった。

このお店は眼鏡大好きマンな社長さんがこだわりぬいた眼鏡が揃っていて、視力が悪くてついつい目を細めてしまう人々の目を見開かせる素晴らしいデザインの眼鏡がたくさんある。

いわゆるオシャレ眼鏡に対して抵抗のあった私も、せっかくだからと購入を決意。

色々試して、店員さんにも聞きながら悩んだ結果、細いフレームの丸眼鏡に近いもの。

色は流行りのピンクゴールド、肌の色に近くて馴染みがいいと言われている。

確かに二代目と比べて軽い印象があるし、実際軽い。

耳の負担も少なく、外した時との違和感があまりない。


「キミに決めた!」

今までの眼鏡人生とは全然違う感覚に電撃が走り、サトシとピカチュウの出会いほどの衝撃的な勢いで決断の神様が舞い降りた。

それ以来ずっとつけているのだから、悩んだ甲斐があったというもの。

いいタイミングで降りてきてくれた・・・。


そんな眼鏡を今日失くした。


「え、あれ、眼鏡は?」

忘れものを取りに会社に行った帰り道、休日だし散歩も兼ねて歩いて行ったのだが、胸ポケットにしまっていたはずの相棒がいない。

目が悪いから眼鏡をかけてるんだからずっとかけてろよ、というツッコミは甘んじて受けない。

ずっとかけてると目が疲れるんだもの、許してよ。

でも無いなら無いで困る、生活に関わるまさに死活問題。

とりあえず会社への道を戻りながら地面を探しても見当たらない。

植え込みも覗いてみたりしたけど、そもそも目が悪いからなかなか思ったように探せない。

誰かが拾いあげてくれていたりしないかと道の側を見たりもしたけれどやっぱりない。

結局会社に着くまでのめぼしいところにはなかった。


残る可能性がある場所は会社の下駄箱か自分の席。

なければ一巻の終わり、また帰り道を中腰で歩くことになる。

いざ、と鼻息荒くしながら入った下駄箱。


ない。


階段を駆け上がって自分の席。


ない。



ない、詰んだ。

もう見当たる気配がない。


なのになぜか絶望感が押し寄せてこない。

不思議な感覚だ。


でも無いものはない。ここにないとしたらやっぱり道中か。

さっきよりも早足になりながら外に出る。

来たときはまだ明るかったのに、気付けばもう夕焼け色も終わって夜だ。

相変わらず下を見ながら歩くけれどない。

もしかしたら誰か親切な人が拾ってくれてやしないかと思って、道中にあるコンビニとか酒屋とかスーパーの店員さんに聞いてみたけど案の定なし。

流石に焦る。


眼鏡がないことに気付いた場所まで戻ってきて立ち止まる。

曲がった腰を引き延ばしながら前を見る。

目の前の風景が少し霞んで見えるのは、


目が悪いせいか、それとも少し濡れているからか。

今年最大の厄がやってきた。

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