26日目 眼鏡~その3~
彼曰く、まさかそれがなくなるなんて誰も予想していなかったよね、私もそう。
***
眼鏡を失くして3日目。
やっぱりまだ信じられなくて、一縷の希望を胸に眼鏡ケースは確認する。
ぺらっぺらの眼鏡拭きが感情もなくペロンと広がる。
まるでメガネが帰ってくるのを待っているようでちょっと寂しい。
ごめんな、君の愛人はどこかに行ってしまったんだ。
しばらく一人で暗い部屋に閉じこもっていてくれ。
きっと取り戻して見せるから。
ちゃっかりと死亡フラグを立てて今日も元気に働きたい。
眼鏡がないときの対処法はいくつかあると思う。
1,家用、もしくはスペアの眼鏡をかけていく。
2,コンタクトレンズを使う。
3,裸眼で頑張る。
4,会社を休んで新しいものを買いに行く。
スペアの眼鏡でもいいけど昔を思い出すから何となくかけていきたくない。
大学時代の陰キャがより鮮烈になってしまうからやめた方がいいと思う。
私の仕事的にも、相手にとっても。
精神衛生上よくないことを進んでやるべきじゃない。
一番いい対処法は会社を休んで新しいものを買いに行くことだと思うけど、
「もしかしたらまだ探し切れていないんじゃないか・・・」と淡い希望が脳裏をよぎるもんだから、まだその段階に踏み切れない。
未練たらたらなのは仕方ないのよ、いい値段したんだもの。
裸眼で頑張るには視力が悪すぎる。
対面したらのっぺらぼうにしか見えないのに、そのまま普通の会話を続けられる気がしない。
相手が慣れた人ならまだしも、初対面の人と会う予定もあるし、モニターで映像チェックをする予定もある。
ただでさえ眼精疲労がひどいのに目の負担を増やしたくない。
結果的にコンタクトレンズを使うことにした。
大学時代、バイト中にだけつけていたコンタクト。
果たして今も使えるのか?
疑問を頭の隅に置いて、存在をまず確認。
一応棚の中にはある、洗浄液や保存液も健在。
裏を見たときに使用期限が書いてあったけど、緊急じたいなので無視。
コロナに未だかかっていない私はきっと健康だから、期限切れのものを使っても食べても大丈夫。
謎理論で洗面所へ。
準備に手間取ることはないけど心構えが必要なのだ。
コンタクトを入れるということはつまり、目の中に異物を入れるということ。
目にとってはとても気持ち悪いことだから、ちゃんと労われるように、自分の脳に言い聞かせないといけない。
「今から目に異物入れるからね!」って。
ダチョウ倶楽部じゃないんだから、それで失敗することはないけど、何となく毎回そうしている。
取り出して一度ゆすぐ、触った感じ破れているところはない。
ひとまず今週はこれで乗り切ろう。
久しぶりのコンタクト生活、いざ、入れる。
「いっっっっっっっっっっっっっったっっっっっっっ!!!!!!!!」
目に激痛、じんじんじんじんと粘膜が悲鳴を上げて瞼を開けていられなくなった。
すぐさま取ろうとするけど瞼の筋力に負けて全然右目に届かない。
涙ぼろぼろ流しながらようやく取れた。
「えっ、えっ?」
疑問符と雷マークを頭に浮かべながら手元を見てみると、とんだ災難。
洗浄液でコンタクトをゆすいでいた。
ボトル側面に「この液体でコンタクトをゆすがないでください」の注意書き。
そう言えばそんな区分もあったっけ。
と言うか痛い!目が引っ込んでく!開けられない!
もう嫌だ!何もしたくない!
シンジ君にどんどん近づいてる気がする。
こんな調子で今週生き延びられるのだろうか。
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