14日目 旅に出たい

彼曰く、そうだ、ヨーロッパに行こう。(耳)


 ***


時空を超えたい。


小学生みたいな空想を実現することができないかと、人間はいろんな知恵を振り絞る。

小説、漫画、アニメ、ドラマ、空想妄想、舞台劇、遠い異国で撮る写真、旅行。

いろんな題材に意識を滑り込ませて、更なる未開の地へ飛んでいく。

人生って結局、自分の知らないところに行くのが一番楽しいと思う。


大学の旅行サークルでの公開は外国に行けなかったことだ。

バイトで稼ぐのでも接客業にしか精を出さずに他のバイトをしようとも思わなかったから、固定給のみで大金を得られるはずもなく。

競馬やパチンコの臨時収入も、行く前から足踏みしてしまって挑戦さえしていない。

堅実に生きていると言えばそれまでだけど、世間を知らないともいえる。

人生での苦労を見ることも聴くこともなく、社会の歯車に囚われてしまったから今まさに苦労をしているわけで、旅行なんてする暇もないし、お金の余裕もない。

大学時代からその癖はぬけていない。


あのときパスポートを取る面倒をしてでも、たとえ一人ででも、外国に行くという体験をするべきだったのだろう。

そうすれば、もしかしたら、自分の想像を超える世界を見ることができたのかもしれない。

修学旅行で京都に行ったとき以上の驚きが、友達との2人旅行でドライブした阿蘇山系の山々と日の光に照らされて金色に光る芝生に風を感じたとき以上の感動が、いまも私を待っていると思うと、やはり一度は行くべきだろうと感じる。


私より小さい子が、一人でヨーロッパ周遊をしたと聞いたとき、なんて大胆な子なんだと目を剥いた。

見た目の大人しさとは裏腹な行動力にびっくりしたから。

その子の話は本当に感動に満ちていて、いまだに目に焼き付いた景色に想い馳せているようだった。

そんな感動の仕方を、ここしばらくしていない。

自分の解放の仕方を忘れているのと同じ、自分のやりたいことがやるべきことに押しつぶされているのだ。

閉塞的な状況は、人間性の減退を生む。

人生に意味なんてないけれど、その景色を見る意味はきっとある。

彼女が目を濡らすほどに感動的な光景が、私の知らない場所にあるのだ。


もし私が違う生まれ方、生き方をしていたのなら、いろんなところに行ってみたい。

空想でも、現実でも、どこだっていい。

近未来なら過去に行ったってかまわないだろうし、未来に行くことだってできるかもしれない。

きっとワクワクして、ドキドキするに違いない。


ケルト音楽集をYouTubeで聴きながら、違う自分に想い馳せる。

旅に出たいなぁ。

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