7日目 吹き荒れる風は嵐のようで

彼曰く、春爛漫、吹き乱れる風。


 ***


「初めまして!今年入社の春疾風です!」

「風のように突き進めるように頑張ります!」

「よろしくお願いします!」


新しい風を感じるのがこの季節。

それが和やかな風ばかりとは限らない。

きっと広告系企業の大手どころや体育会系、財閥系の大銀行は今のような挨拶がデフォなのかもしれない。

暑苦しくてこの上ないそれは、風どころか嵐となって会社に吹き荒れまくるんだろう。

それでも彼らに負けられない強い意志が育つのはきっと同じ気風の人間ばかりだからだと思う。

郷に入っては郷に従う前に、郷に合った自分たれ。

仲間入りを果たす前からの自己改造計画。

長年続く”伝統”、”文化”を重んじる日本人のお家芸。


「目上の言うことがすべて、そのすべてに従え。そのうえで自分が何者かを見せろ」


プラスとマイナスとくっつけろと言われているようなものだ。

スポコン漫画みたいな展開、現実にあったら大変だよ。


ちょっと前に連絡が来た友達を思い出して、粛々と念じておく。

どうかそんなふうになってはいませんように―――。


ところで私の後輩は、当然というかなんというか、そういうタイプではなかった。

ずっと喋っていると声が大きくなってしまうかもだけど、喋るトーンや声の大きさはごく普通。

いろんなことに対して質問をちゃんとするし、事前に知識があるぶん細かいところまで気付いている。

自分なりに身の回りを整頓しているし、生活に関してもしっかり根底をおさえている。

ポイントをつかむのが上手く、途中から任せてしまっても大丈夫そうな安心感。

ノリで言った言葉に対する反応は中の下くらいだけど、相手と会話しようという姿勢が好印象に思う。

仕事の仕方、自分なりの働き方を見つければ大成するであろう有望株。

いっそ教えることなんてないんじゃないかしら?

逆にそんな危惧が浮かんでしまう。


新しい季節になると私は弱気になる。

それはきっと新しい子が有能だったとき、いざ教える立場になって理解していないことが多すぎることに気付くといたたまれないから。

結局自分より上の人間に2人して聞きに行くことになるから申し訳ない気持ちになる。

「こんなワンクッション置かれるタイプの先輩で申し訳ない・・・」

緩衝材がいい迷惑と思われるかもしれない。

かろうじて緩衝材くらいにはなりそうという逆転の発想でなんとか存在意義を見出していきたいところ。

変なぼろを出さないうちに、それなりに話の分かる人間、先輩に、私はなりたい。


先輩風、吹き荒らしたい。

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