6日目 下準備
彼曰く、もう今からドキドキする!
***
新年度が始まって1週間たった。
もうそんなに経ったと?早すぎひん?
同僚の素っ頓狂な言葉が響く。
朝、とはいえ時間は昼近く。
私たちの会社の始業時間は人それぞれ。
一応定時があるとはいえ、タイミング、企画の納期によって、
働く時間はみんな様々。
フレックスタイム制だか、裁量労働制だか、そんな大層な名前がついてはいるけれど、果たしてその実態は・・・。
これ以上は事務所を通してからでお願いします。
知るも知らないも自己責任で。
これが君の入ろうとしている会社だよ。
そんな言葉で入ろうか。そんなことを考えている。
そう、今年もまた新人教育をすることになった。
まだ3年目、明日から担当する。
立派な実績もそんなにないし、大変な経験もまだまだしていない、絶賛育ちざかり甘えたいざかりな私がそんな役目を負うのも2度目だ。
去年の子はなかなかに肝の座った子になった。
関西弁で乗りの良い、小柄だけどフレッシュな空気をもたらしてくれるいい子。
アグレッシブな性格と向こう見ずな突き進み方が玉に瑕だけど、自分の内面をしっかり理解できているようで、失敗してから学ぶタイプ。
一番フォローのし甲斐がある後輩。
おかげですっかりお母さんみたいな世話焼きな性格になってしまった。
何かあれば聞くようになったし、困っていそうであれば手伝ったり。
もともと私たちのライン自体がそういう気質なのもあるかもしれないけれど。
それにしても私にこんな性格、こんな気遣いまでインストールされていたとは、環境に適応しすぎるのも考えものだなぁ。
新人の顔、2人とも初日しか見ていないからまだ覚えていない。
何ならマスク文化になってからちゃんと顔を覚えるという機能自体を、脳内チップから無くしているまである。
その機能を復元するのに、人間は一体どれほどの価値観を犠牲にしなければいけないんだろう。
その間に生まれていたかもしれないアイディア、発明はどこへ行くのか。
実にもったいない脳の使い方だ。
私もちゃんと考えなければ・・・。
と、そんな自分に関することばかり考えていても仕方がない。
目下問題なのは入社してくる後輩とちゃんと会話ができるかどうか。
そこが一番気になるところだ。
仕事において大切なことであり、嬉しいことは人と話が通じた時。
「当たり前だろ」と思われるかもしれないけれど、意外にこれは多くの人に通じると思う。
互いの腹の探り合いもいいけれど、結果として自分の要望がちゃんと通ったとき、自己責任の下、自分の要望をちゃんと通したときこそ真の喜びを感じることができるはず。
新人には、そういう仕事で感じるいろんなことを学んで経験してほしい。
とどのつまり、相手のことは話さないと分からないということ。
果たして後輩はどんな子なのか、いまから緊張してドキドキする。
きっと面と向かった時の心拍のシンクロ率が120%を超えたとき、真に互いのことが分かるときが来るのだろう。
楽しみのドキドキも重なってきた。
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