2日目 いちごタルト

彼曰く、ここのタルトは全制覇したいね。


 ***


近くで美味しい店を見つけた。


フルーツいっぱいのタルトケーキ。

いちご、りんご、ラズベリー、ブルーベリー、みかん、モンブランもある。

ケーキの中で好きなのはタルト。

端っこの硬い生地の食感が好き。

サクサク、ときどきゴリゴリしたものもあるけど、顎から伝わる食べてるって感触。

あれが個人的に最高。

歯を押し返す、食いでのあるデザート。

ショートケーキみたいな柔らかいものも好きだけど、甘いか酸っぱいかだけだと物足りないよね。

食べるんだから食べてて楽しくないと。


この店で初めて買ったのは季節限定のタルト。

たんかんっていう、柑橘系のフルーツ。

奄美大島出身の大ぶりでヤンチャな感じの子らしい。

店先の黒板に黄色いチョークで描かれたたんかんがかわいかった。

ショーウィンドウの中で、彩度高めの黄色いタルトが目をひいた。

ひときわキレイな実は、眩しく光る宝石みたい。

淡くオレンジがかったクリームの上にたっぷり乗ったたんかんのタルト。

重量感のある見た目ながら、崩れることなく切り出されてる。

食べる時間を楽しみにしながら持って帰った。


細やかな幸せをつまむ時間、机に広げて「いただきます」。

崩れないようにそっとスプーンを入れる。

なんでフォークが家にはないんだっけな、生地が切りづらいけど、仕方ない。

口に入れる。

果汁が弾ける、爽やかな酸味が広がっていく。

生地は意外に固すぎない、ほろほろと崩れてとけていく。

爽快感、一瞬のアクション、印象深いのに後には何も残らない。

口の中で完成するアートみたい。

ゆっくり食べようと思ったのにすぐに食べ切ってしまった。

ちょっとクリームがついたフィルムを見て名残惜しくなる。

いいお店を見つけてしまった。


3月半ばの訪問以来、毎週何か買ってる。

タルト沼にハマったのかもしれない。

悪い気はしない、もともとだから、むしろ開拓できて嬉しい。


友達に話すと食べたいと言う。

「いちごタルトないの?」

なんとも春らしい提案、確かあったはず。

「来週買ってくるよ」「やった♪」

朝会社に行くときに買って行こう。

近くの店だとこういうことができるからいい。

引っ越したいと言ってるけど、なんだかんだで今の場所、嫌いじゃない。

そういえば明日、この友達の誕生日だった。

図らずも誕生日ケーキになる。

ホールはちょっと大きすぎるからピースで許して、くれるよね?

私も食べるから、一緒に食べよう。


いちごタルト、春の味。

来週やりたいことができた、鮮やかなスタートの予感。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る