19日目 シン・エヴァンゲリオン劇場版:||⑨

彼曰く、ぼくも行く、もう逃げない。


 ***


この関係もいつか終わる。

それが互いの理解の違いによるものであれ、

突然の別れによるものであれ、

終止符が打たれるタイミングはどこかしらにある。


ずっと変わることのない関係なんて、誰かから生まれたという事実か、

その舞台に立ったタイミングで仕分けられる先輩後輩の関係か。

それくらいのもの。

あとはそうね、結局他人はどこまでいっても他人なんだってこと。

その名前が変わるだけで、中身が変わっていない。

友だちから始まるか、恋人に発展するか、大切な人になるか、他人に戻るのか。

始まりがあれば終わることはどこかである。


シンジとレイ(仮称)の別れもその一つ。

世界中にありとあらゆる出会いと別れがある中のある一つの事例だ。

別れ方が特殊なだけ。

人が水になるなんてこと、現実では起こりえないのだから。


彼女は最後の支えだった。

絶望の淵でずっと待ってくれていて、手を差し伸べてくれることもあった人が、

目の前で笑って消えていく。

感謝の言葉、覚えたての言葉を何度も重ねて、

少しでも悲しみが紛れるように距離を取りながら、

新しく生まれた可能性の未来に想いを馳せて、消えた。


好きだった人。

大切だと思った人。

唯一同じ想いを持ちあった人。

そんな人を無くせば人の精神は壊れるに決まってる。

普段の人付き合いには割と無頓着な私でも揺れ動く。

大好きな小説やマンガのキャラにさえ思うのだから。

そんな人を失ったシンジ。


また沈み込んで、このまま戻ることはないだろう。

そう予想していたけれど、今度のシンジは少し違った。


赤く染まり浄化された大地を取り戻そうとするヴィレ職員がいた。

シンジと同じくらいの背格好。

シンジの身体年齢は14歳当時のまま。

あれから14年経っているのだから、ほぼ同い年のようなもの。

自分が世界を知らなかった間に生まれ、絶望的な世界でも前を見て生きる新世代。

ほんの少ししか言葉を交わさなかったけれど、

新世代のために覚悟を決めた元ネルフ職員の想いも知る。

車での帰り道、焼け色の空が遠く揺れる。


責任感か、義務感か、それとも諦念なのか。

きっといろんなことを彼なりに考えた結果なんだと思う。

この世界を終わらせたかったのかもしれない。

今生きている人たちを守りたいと思ったのかもしれない。

支えてくれた人たちに恩を返したいと思ったのかもしれない。

父と自分と、初号機にいる母との因縁に決着をつけたかったのかもしれない。

彼は立ち上がった。


今度こそ、自分の意志で。

あのときのように覚悟を決めて。

静かに、密かな痛みとともにすべてを抱えるつもりで。

エゴではなく、人の想いも背負った上で前を見る。


決意を決めた人間は瞳の色が違う。

想いの強さは人を変えるのだ。


一度は降りたヴンダーに再び乗る。

世界に何かが起こっても新しく始める用意のある箱舟に、

多くの想いがこもっていることも感じたのだろう。

そして、何かできることがあるのか分からなくても、

この世界が終わるときを見届けるのは自分の義務だと実感しながら。

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