18日目 シン・エヴァンゲリオン劇場版:||⑧

彼曰く、あなたに会えて、ここに来て良かった、ありがとうを教えてくれた。


 ***


集落は終わりに向かう世界で数少ない生き残るための場所。

サードインパクトが起きた後にかろうじて難を逃れた人たちの寄り合い所。

老若男女、元気な人からちょっとしたけがをした人まで、

実にいろんな人が揃っている。

崩壊しかけている世界、でも彼らの姿は前向きで、

絶望から目を背けようとするのではなく、

まさに”現在いま”を生きようとしている。


真っ赤に染まる大地との境界には使徒封印用呪詛文様が描かれた柱が立てられ、

安全と危険の線引きがなされている。

柱が囲う内側は自然のままの風景。

境界の外側は赤一面の大地。

その内部にある集落も含めて、安全圏はヴィレの支援によって成り立つ、

地獄の中のオアシス、生きる人々のためのセーフゾーンだった。


生き生きとした人々の姿はレイ(仮称)の考え方、態度に至るまでを一変させた。

Qでは氷のように固まった表情のままだった彼女が、

人々とのふれあいで自然を知り、人を知る。

毎日の挨拶、働く姿、風呂で疲れをいやす、助け合う。

おはよう、こんにちは、お疲れ、いただきます、ありがとう。

人の営みは感情を生み、やがて彼女の心を動かした。


まるで破の綾波レイのよう。

シンジを想い、誰かを想い、人と言葉を交わすことを知った彼女。

レイのファンにとっては涙ぐましい場面だったのかも。


同じころシンジも前向きに考えるようになる。

自分の行いは確かに間違っていた。

どうしようもない変化を生み、その波乱は世界を巻き込み、

自分以外の、自分の周りをぶち壊して、めちゃめちゃにして、

結局残ったのはどうしようもない自分だけ。

そんな自分でも支えてくれる人がいる。

気にかけてくれる人がいる。


そのことに気付いただけでもいいきっかけだと思う。

現実世界であればそういう存在は現れなかったりするだろうから。

ひきこもってばかりで、自分しかいない状況ならなおさら。

シンジが幸運なのは、アスカや他の人たちのつかず離れずの気配りだと思う。


人が立ち直るきっかけは意外に些細な事。

一人で考えていると「もうだめだ・・・」となることも多いけれど、

誰かに肩を叩かれて初めてそこから少し離れて考えることができる。

すると意外に自分の想像よりも傷が浅かったりする。

思い込みってやつ。

取り返しがつくことなら、挽回のチャンスがあるなら、

自分だけの責任じゃないなら、まだ巻き返す機会は十分にある。


絶望を考えて溺れるよりも、希望を目指して泳いだ方がいい。

いざ前に進もうとしたとき。


シンジとレイ(仮称)のつながりは消滅する。

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