3日目 吉野家

彼曰く、すべては食欲の赴くままに。


 ***


安い、早い、美味い。

牛丼屋さんは数あれど、店による違いがないのがこの信念。

牛丼の神様が見張っているかのような速さで作られ、提供される数々の丼は、

どうやら時間がかかるものの方が少ないらしい。


マニュアル化された調理工程。

出入りしやすい店内環境。

簡潔な注文方法に流れるような接客。

働く人のためのご飯、それが牛丼屋に求められることだ。


メニュー、トッピング、数あれど、

決して埋もれることのないスタメンがいる。

どんな人にも定番がある、ということだ。

私の定番はネギ玉牛丼。

シャキシャキ新鮮な青いネギ。

中央に作られた茶色と緑の玉座に黄色い玉を納める。

端に置いた紅生姜とちらした七味が彩を添える。

ただでさえ簡単に食べられる肉と米が、

どろどろの加速装置を携えて口の中にライドオン。

入るたびに流し込まれていく。

噛めば肉の旨み、飲めば米の甘さ。

一体となって胃に飛び込んでくる集団は、

まさに私と一体になるようにしみていく。


疲れた体、エネルギーを求める体が満たされていく感覚。

ここまでかかっても15分。

スピーディーでお財布にも優しい時短メシ。

まさに働く人のためのサラメシ。


それがどうしてこうなったのか。

目の前には定番の丼。

横に鎮座する肉と野菜のサラダ。

写真とかで見ればヘルシーとガッツリを両立したようなラインナップだけど、

きっとこの頼み方は間違ってる。

私の牛丼オーダーは間違っている。

聞いたようなタイトルで寸劇ができそう。

目の前の状況がまさに寸劇なのだけど。


サラダの売り文句は”高タンパク×低カロリー”

なのに、低めたカロリーを牛丼で補ってる状態だ。

タンパク質が増えたのは嬉しいけど、これじゃあ考えた意味がない。

節約精神はどこいった?合わせて1000円超えてるよ?

最近のラーメン屋とかちょい高めのランチならまだしも、

牛丼チェーンで1000円は高い。

贅沢を通り越して価格破壊、

暴動だよ、丼騒動だよ。

江戸のママさんたちも驚きだよ。


いやまあ、平らげたけども、江戸っ子魂で。

好き嫌いはいけやせんぜってぇこった。


どんな店でも食べようと思えば思うだけお金がかかる。

たとえ牛丼屋であれ、高級焼肉店であれ。

美味い飯には高い金を払うのがセオリー。

この世界でのルールということ。

海外ではもっと値が張るらしく、日本食へ払われる対価もそれなりだそうだ。

そんな噂を聞くと、日本はいいところだと思わなくもない。

食欲と節約というのはままならないものだけれど、

やはり美味いご飯はやめられない。

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