29日目 いい肉の日
彼曰く、1年で一番肉を食べないといけない日。
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11月29日。
何を隠そう、”いい肉の日”です。
ただの肉の日ではなく、”いい”肉の日。
皆が背伸びして高いお店に行きたがるのが今日です。
焼肉バイトをしていた頃、この日の予約はすごいモノでした。
1カ月前から受け付けている予約はその日に固まりがちで、
3週間前には別日でないと入れなくなってしまっていました。
個人経営で席数が少ないとはいえ、
焼肉通の間ではいいお店と言われていたらしいので、
人気の度合いは相当なものだったといえるでしょう。
焼肉好きが必ずと言っていいほど予約していたのもこの日です。
金払いのいいマダムやおじさま方が団体を成して、
わいわいがやがやしながら食べるのを、
忙しくホールを動き回りながら相手していました。
当日が平日だろうと、焼肉好きにとっては毎日が焼肉。
休日と大差ない忙しさで舌も足も頭も回らなくなりそうでした。
いい肉の日は私にとっての勝負の日でもあったのです。
1年で一番疲れる日でしたが、楽しみな日でもありました。
毎月29日に近い日曜日、店長が頑張って働いてくれるバイトの子たちのために、
賄いで焼肉を出してくれたのです。
バイトに慣れて貢献できるようになったころ、
ついに私もお呼ばれされるようになりました。
下準備と後片付け、その日の営業がついてきますが、
その対価としては十分すぎる報酬です。
お店で出しているのと同じ肉を食べる機会なんて、
お客として来ないと無理だと思っていたので飛び上がりそうでした。
「働かざるもの食うべからず」
店長がよく言っていましたが、普段の賄い自体も量が多かったので、
沢山働く対価としてたくさん食べることを許してくれたのでしょう。
太っ腹な店長です、男前でしたね。
しかも11月29日はただの焼肉の日ではないのです。
賄いとして出ている焼肉のはずですが、イチボやウチモモなど、
店では希少部位として出している精肉まで食べさせてもらえました。
在庫処分のためかもしれませんが、学生の私たちバイトにとっては、
財布を絞り上げてようやく食べようと思うくらいの値段がします。
感謝せずにはいられませんでした。
一番疲れる日でもありましたが、一番楽しみな日でもあったのです。
他にも厨房の先輩が焼肉に連れて行ってくれたりしました。
おかげで焼肉を多少深く知ることができたわけですが、
同時に月イチで焼肉を食べたくなってしまう体になってしまったのです。
仕事を覚える時期は忙しくて暇がありませんでしたが、
最近は余裕が出てきて一人焼肉ランチもしています。
正直良し悪しがはっきりわかるかは自信ないですが、
どうせ食べるなら美味しいお肉を求めてしまいますね。
贅沢な体になったものです。
せっかくの日曜日。
たまには昼間から焼肉に行くのも悪くないです。
お金に余裕のないタイミングなので高いところは我慢ですが、
少し奮発して楽しんで来ようと思います。
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