14日目 バレンタインデー

彼曰く、日ごろの感謝と思いを込めて。


 ***


バレンタインは特別な日。

恋人にとっては一世一代の。

友人にとっては一生ものの。

家族にとってはこれからも。

普段なかなか言えないことを伝える日。

思いも本音も、その他もろもろ、いろんな気持ちを飾り付けて、

溶かして焼いて固めて贈る。

気持ちが溢れて止まらない人もいれば、

落ち着いて渡すことができる人もいる。

いろんな想いが交差する、慌ただしくも幸せに満ちた一日。


日本のバレンタインは世界的に見ても異質とされている。

本来のバレンタインは大切な人、特に家族や恋人などに贈るのが一般的。

だが日本では、さも恋人でしか成立しないような言われよう。

”女性から男性へのチョコの受渡し”じゃないと意味がない、

なんてことを言われていた頃もあった。


とにかくチョコレートにこだわるのが日本式。

愛情表明の場を意識するあまり、認識が広がりすぎて諍いの原因にまでなりそう。

それもこれも、ネットやテレビでことあるごとにチョコレートを見せる、

しつこいくらいの広告のせい。

街を歩けばチョコレートが目につくくらいに、

チョコレートの香りとラッピングの赤やピンクが花咲いている。

店頭、店内、職場や学校にまで、広告業界の陰謀は浸透しているのだ。

かつての広告の謳い文句ではこう言われていた。

『あなたのバレンタイン(=愛しい人)にチョコレートを贈りましょう』


どうにかしてチョコレートを売りたいのはなんなのか。

ココアによって日本人を茶色く染めたいのだろうか。

食べられるだけ食べさせて鼻血で失血死させようというのか。

製菓会社のガーナはガーナ本国に裏で操られているんじゃないか。

いろんな憶測が飛んでしまう。

チョコレートを食べないと死ぬわけでもないのに。


「でも楽しそうだし、今日くらい買ってもいいかもね」

そんな女子高生の一言が募りに募って今の文化ができたんだと思うと、

若い世代の影響力というのは昔からすごいんだと感じてしまう。

当初は広告効果もあまり出なかったらしいけれど、

小学校高学年から高校生までの学生層が普及に一役買っているらしい。

そんな軽い気持ちがいつ、どう曲解されたのか分からないけれど、

女性から男性に贈るのが一般的とされている時期があった。

それが先ほどの『恋人同士のイベント』的な考え方。

家庭と結婚の女神ユーノーの祝日が2月14日だとか、

聖ウァレンティヌスが婚姻を禁止された兵士を慰めるため結婚式を行ったとか、

そのウァレンティヌスが処刑された日がユーノーの祝日だったとか、

起源とされているいろいろを知っている人間がいるとは思えないけれど。

ともかく一部の人間が辟易するような慣習として認知されていったのだ。


もっとも近年の大量消費社会や差別的価値観の薄まりによって、

その限りではなくなったが、今度は逆に範囲が広がりすぎた。


女性が意中の男性に贈る”本命チョコ”。

恋人とまではいかないが友人として贈る”義理チョコ”。

二者区別は依然としてあるけれど、新たな派閥も。

女性同士で贈りあう”友チョコ”。

男性から女性に贈る”逆チョコ”。

自分で買って食べる”自己チョコ”。

男性が男友達に贈りあう”強敵ともチョコ”。

時代の流れとともに、様々なチョコレート党が生まれてきた。

マカロンやクッキー、マドレーヌなどの新党も生まれつつある。


最近はハラスメントへの関心も高まり、そんな意識も薄れている。

国や信条、宗教、性別の垣根さえ超えられるようになった現代。

イベントや催事には自由度と楽しさの共有可能性が求められていると思う。


ゴディバ・ジャパンのシュシャン社長はこう言っている。


『あげる人にとって楽しいバレンタインデーかどうか、それが最も重要なこと。

義務感や形式や慣習からではなく、もっと自由に、

感謝や愛情を表現する日として楽しんでいただきたい。』


純粋に、まっすぐに、楽しんで気持ちを伝えること。

抱える想いは違っても、誰かを想うことに区別をつけてはいけない。

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