14日目 拍子抜け

彼曰く、ま、こんなこともあるかな。


 ***


今日は気合の入れどころ。

時間のかかるヤマが待ち構えてる。

まだまだ大変な時期は先に控えているけれど、今日はその第一弾。

地獄の入り口、その正面に立たされている感覚。

こればかりは監督の意向だから仕方ない。

私にはどうしようもない。

大変な作業をするのがこの仕事だから。

大変な度合いにもいろいろあるけれど、この後に控えるものはそのトップ3に入る。

今日行うのはその確認、そのあとで降りかかるのが面倒な作業。

まだ気分が元気なうちに、チェックだけでも済ませてしまおう。

私自身は初めてだから、先輩たちに聞いてみると、

「時間かかるから気をつけな」

「スケジュール余裕持っといた方がいいよ」

「夜遅くまで残ることになるかもね~」

心配なのか煽りなのか。

もはや乗り越えた人たちなので親の目で見守ってくる。

私たちは先で待ってるからな、みたいな・・・。

くそう、私にだけ苦労させやがって!

今に見てろ、大変な思いするのはそっちだからな!

なんて、自分も終われば同じ側になるのにそんなことを思う。

これからの苦労がどれだけなのかまだ分からないけれど、

今日このときから今一度気合を入れなおして向かい合わなければ。


そんな気持ちで打ち合わせ。

他の人たちはまったり気分かもしれないけれど、

自分は初めてということもあって、何事もないかちょっとどきどき。

自分の新三だけ飛び出しているんじゃないかと思うくらい、

心拍上がっているのを感じる、どきどき。

緊張の理由は初めてというだけじゃない。

緊急事態宣言が出されてから、この時間までに帰宅せよという勧告が出た。

その時間までに打ち合わせが終わるかという不安。

どぎまぎしながら進んでいくチェック作業を見守っている。

何がどうなるのか、必要な素材はそろっているか、

考えることも多いけれど、気にしないといけないことは押さえているから、

多分大丈夫じゃないかな・・・。

基本的に私は何も言わないけど、気になったことは言ってみる。

それに対して監督たちが答えてOKになればそのまま次へ。

ときどき修正点や作業者からの意見を精査しながら進むので、

ひとつのチェックに時間がかかることも想定していたけれど、

今回のチェックは意外にスムーズ。

「そこ、それでいいんですか?」

「うん、大丈夫」

そんな感じでポンポンと進む。

結局予定時間より1時間も早く終わった。

しかもこれだけしか見れないんじゃない?と思っていた倍をチェックできた。

拍子抜けを越えて驚嘆している。

こんなこともあるんだなー、とちょっと呆けながら部屋に戻り、

迎えてくれた先輩たちもちょっと驚き。

この企画が動き出した時もこんなふうに迎えられた気がするな。

とにかく大変なことがひと段落。

明日残りのチェックがあるけど、今日のを見る感じ心配なさそう。

ま、こんなこともあるのかな。

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