20日目 待ち合わせ
彼曰く、そんなこと、ある?
***
寒空の青さが、どこか温かさを孕む日曜日。
澄み切った空気が風に乗って顔に押し付けられながら、
待ち合わせの駅改札まで歩いている。
今日は久しぶりのお出かけ。
一緒に遊びに行くようになってもう1年近い。
お互いに忙しいから毎日会うわけにもいかないし、
示し合わせて都合を開けておくのも難しい仕事だけど、
お互いインドア気味なので面倒なことは全然なかった。
「行く?」「うーん、良いなら」
そんなやり取りで約束が決まる。
積極的じゃない2人が、少しだけ距離を詰めようと頑張る姿。
恥ずかしいけど、誰かと一緒に出かけるのは楽しい。
世間が外出を避けている時期、いわゆる自粛期間はさすがにやめたけど、
終わってから最初に会ったのはこの人だったりする。
それからひと月に1回は会ってると思う。
カフェに行ったり、映画を観たり、公園をぶらぶらしたり、
動物園とかにも行ってみたりして、食べ歩きも楽しんだ。
まるでデートみたいだけど、確かにある意味デートかもしれない。
自分にとって特別な人とのお出かけ。
私にとってのデートはそういうことだから。
異性はもちろん同性でも話すときは緊張しがちな私も、
あの人と出かけるときには躊躇がなくなってる。
誘われると嬉しいし、誘ってOKを貰えるともっと嬉しい。
だってそれは、少なくとも拒否はされていないってことだから。
普段は寒さに負ける私も今日はぽかぽか、心が陽気。
改札前であの人を見つけるだけでなんだか胸がきゅんとしちゃう。
あの人が待ってくれている。
私が来るのを待ってくれている。
ああ、こんなに嬉しいことはないな。
きっと今、あの人は私のことを考えてる。
私が目の前に現れるまで、
いつ来るのかなとか、カフェに行った後はどこに行こうかなとか、
今日の服装は変じゃないかなとかとか。
色んなことを考えてるだろうけど、
どの気持ちも私の方に向かっている。
風が強くて寒さが増しているのに温かい気持ちになるのは、
きっとあの人が私のことを考えてくれているから。
人の考えることなんて分からないけど、でも。
思えば思うほど、足取りが軽くなるのに反比例して、ゆっくり進もうとしてしまう。
この気持ちをもっと長く感じていたいから。
あの人の気持ちをもっと独り占めしたいから。
そんなことを考えちゃう私は、きっと悪い子なんだろうな。
でも悪い子をあの人は苦手だろうから、ゆっくり近づいていってあげよう。
上がる口角、高鳴る足音。
横から現れたらどう思うかな、びっくりするかな、なんて考えながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます