18日目 始まり

彼曰く、仕事、始動。


 ***


金曜日って、罪よね。

その単語を聞くだけで週の終わりを予感させる。

週の終わりは労働の終わり。

今週の疲れが一番ピークになるタイミングで、

一番気が抜けるタイミングでもある。

だから金曜日はなるべく打ち合わせをしたくない。

出来ることなら定時で帰りたい。

ジョブカンを押したらそのまま帰宅できる装置を誰か開発してくれ。

名前はそうね・・・。

『おかえりなさい』かな。

会社が「帰りなさい」と帰宅を促すのと、

自宅が「おかえりなさい」と迎えてくれるのと、

2つの意味をもたせておこう。

よし、ドラえもんに頼んでおこう。


だというのに今日は夜開始の打ち合わせ。

しかもそれは一番大事なやつ。

自分の仕事が始まる、闘いのゴングが鳴るのだ。

今の仕事は首の長いもの。

始まっても終わりまでの期間がつかみきれません。


私たちの仕事の主はスケジュール管理。

制作担当というのはそんな末端の管理をする仕事のわけですが、

裏を返せば私たちがその作品の完成を左右するポジションにいるということ。

早く終わらせようと思えば終わるけれど、

何かを作るというのはすぐに終わるようなものではなく、

突き詰めればどこまでも進んでいってしまう沼。

クリエイターの話を聞くのも仕事ですが、

クリエイターの仕事分量を考えるのも仕事です。

とっても大変。

彼らは基本的に作る頭が飛びぬけているので、

それ以外のことがおろそかになりがち。

自分のスケジュールに乗せるには、その人とちゃんと話し合い、

いつまでにどの作業をしていないといけなくて、

そのためには何が必要なのかを考える。

自分で組み立てたパズルが外れることのないように、

ピースを1つずつはめていく作業ゲーム。

1つ間違えるとどんどん失敗が他のところにも影響するから、

ドミノを並べるゲームだと考えた方がいいかもしれない。


そのスタートを飾るのが今日の打ち合わせ。

誰もが息を呑んで最初の板を並べるのに、

それを万全の態勢で臨ませてくれないのはなぜなのか。

疲れもピーク、年の瀬で気分もゆっくりしたくなってる。

やる気はあるけどもうすぐ晩ご飯の時間。

私、お腹が空いてきているのだが?

そんなタイミングで始めるとはどんな罪を犯したのだろうか?

金曜日のせいか?

いや間違いなくコンテが上がらなかったからなんだけど。

でも仕事となればやるしかない。

ゴングを鳴らすのは私ではなくて先輩なんだから。

急に鳴らさなかっただけまだマシかもしれない。

一応準備はしているから、無駄にならなかったことをまず安心しよう。

でも夜の打ち合わせはみんな眠くなるからよくないと思うのよ。

それだけは避けてほしかったなー。


「頑張れ~」

同僚たちに見送られながら会議室に向かう。

みんなこれから何を食べるのかな~って考えたらお腹すいてきた。

打ち合わせが終わったらサンドイッチと肉と野菜たくさん買って帰ってやる。

部屋を出る前に気合を入れて、闘いの場へと続く階段を駆け上がった。

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