21日目 これから

彼曰く、人間五十年と織田信長は言ったらしい。


 ***


現代は「人生百年時代」。

『ワークシフト』という著書で有名なリンダ・グラットンがよく使う言葉だ。

その言葉通りの人生、その言葉を冠した現代に生きる私は、

それに足りうる価値を持っているのだろうか。

その重さを理解し、耐えうる精神を持ち合わせているのだろうか。

その人生とともにし、添い遂げられるだけの肉体を鍛えているのだろうか。


残念ながら、まだノーであると言わざるを得ないと思う。


私には人よりも目覚ましい才能があるわけでも、

突出したスキルで何事もこなしていく度胸もない。

あったとしてもその領域に至る前に朽ち果てるか、

夢想するだけで何も成しえないと思う。

私という人間はそういうものだ。


やる気だけはいっちょ前で、これをやろうと思えばやれる気になる。

行動開始、継続までは到達するものの、

完了に至る前に諦念や怠慢に襲われて途中放棄。

今までもたいていはそればかり。

なかなか続けることができないでいる。

そのうち始めることも忘れてしまい、

現状維持だけで充分だ、満足だと、変化を楽しまない性質になってしまった。


だがリンダ・グラットンは言う。

「人生は100年もある。その人生を健康的に、

そしてより生産的に生きるには無形資産がとても重要です。

学習して身につけたスキルや知識、良好な関係などの生産性を高める資産。

100年という時間を生き抜くための生活習慣やストレスマネジメント。

そして変身する能力。

100年間全く同じままの人生とはつまらないものです。

一度きりの人生、楽しまなければ損というもの。

子供のころ、初めて見た外の世界にあこがれと好奇心を抱いたように。

生きるとはもっとワクワクして楽しいものであるべきです。

生き生きとした生活、活力のある人生に必要なことです。」


過去、織田信長は人間五十年と言ったそうだ。

だがもうその短い人生観は古い考え方。

これからは、これからの世界に則した考え方で生きなければ。

戦乱の世なら折り返したところ。

長く生きた方だと褒められることだろう。

しかし現代では半人前にも達していない。

それは大人に舐められて当然。

楽しく生きるには、大人に舐められたままでいないためには、

もっと自分と向き合って、どんな生き方をしたいかを考えなければ。

人生の折り返し地点に立った時、

まだまだこれからと元気でいるために。

いつかと分からない終わりの淵に立った時、

自分の人生を誇らしく思うためにも。


今日、また一つ歳を取った。

誕生日おめでとう、私。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る