5日目 ここからが正念場

彼曰く、そろそろ仕事の綻びに施しを。


 ***


私は自分の力を過信していない。

何事もそれなりに出来はするが、人並み以上にできるかと言われたら自信はない。

表向きうまく進んでいるように見えている旅も、

どこかで計画が失敗して思う通りの方向に進まないことは当たり前。


以前、青森に友人と旅行した時のこと。

企画から旅行先の選出、ルート決め、宿泊先の手配、費用、

現地での動き方からおすすめのお土産に至るまで、

徹底的に調べ上げて命題である「友人を楽しませる」を遂行するために動いた。

どちらかといえば自分さえよければいいタイプの私。

数少ない大学での友人に頼まれたとあっては無碍にもできず、

また単純に旅行に行きたいと思っていた時期だったのでちょうどよかった。

所属していたサークルの旅行は基本的にサークルの代表がすべて決めていた。

私たちヒラメンバーはお金を出すだけ。

もちろん楽しいけれど、行きたいと思っているところに生きづらいことがあった。

だから一度自分で行くところを決めてみたかったのだ。

幸い友人からの注文は「緑、自然を感じる場所」というアバウトなもの。

私の生きたいところで構わないと言われてしまえば遠慮はしない。

聞くべきことは聞いたうえで自分のやりたいように計画する。

やったことのない体験にワクワクしていた。

実際青森の名所や十和田湖への徒歩ルートを見ているときは、

友人がどんな反応をするかや自分の想像とどれくらいの差が本物にあるのかなど、

初めて行く場所への期待と興奮に満ちていて楽しかった。


旅行はちゃんと楽しかった。

行きたいと思っていたところは回れたし、

買いたいと思っていたもの、食べておきたいものも食べることができた。

ただ予想外のことはいくつもあった。

奥入瀬渓流徒歩ルートは草木が鬱蒼と茂っていて、長ズボンじゃないと足が痒い。

旅行中通じて晴れ予報だったのに、十和田湖に到着したところでにわか雨。

夏休み期間が被っていたからかところどころで渋滞に引っかかる。

おかげで行きたいなと思っていた場所いくつかは回れずに終わってしまった。

友人は「自然感じた、マジでもののけ姫」と、

ジブリっ子の私からすれば大絶賛の感想を述べてくれたけれど、

企画者側としては少し不満の残る結果。

何かしら計画が綻ぶタイミングがあるということを、このとき実感したものだ。


予定調和とは崩れるためにある。

何事も完璧なんてことはない。

きっとどこかで罠に引っかかるのだ。


まさに今、仕事で綻びが出てきている。

このままいけばスケジュールを大幅にずらさざるを得ない。

せっかくの準備が水の泡になる可能性。

自分の実力を信じて待つ大胆さ。

私の中の天秤は簡単に可能性の方に振れる。

大胆さがないわけではなく、多少の大胆さを残しつつ、

最低限のやけどで済むように次善策を練っておく。

これは旅行企画の時には考えられなかったこと。

仕事を始めて気づいた大切なこと。

もちろんそれが成功するとも思っていない。

私は自分を過信していないから。


私の実力は高くない。

企画やスケジュールには必ず綻びが生じる。

ただ1つ言えることは、

綻びが起きそうなときの危機察知能力、行動力はある。

こうした失敗で怒られたことはまだないから。

動くべきにはちゃんと動ける。

自分を過信はしないけど、自分の能力は信じられる人間でありたい。

そうすれば自分を無くさず生きていける。

そんな気がする。

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