19日目 ドラァグ

彼曰く、夢はかなえるものよ。


 ***


いつものように動画を漁っていた時のこと。

ドラァグ・クイーンのメイク動画を見つけました。


皆さんドラァグ・クイーンって知っていますか?


”Drag Queen”、女装してパフォーマンスをすること。

纏った衣装の裾を引き摺る(drag)ことからこう呼ばれるそう。


つまりは女装することです。

動画で紹介されていたのは、ごく普通の男性。

とてもサムネ画像で写っているばっちりメイクを決めた人と同一とは思えない。

これからどんな過程を経てこの男性が変わるのか、

好奇心に負けて再生ボタンを押していました。


世の中には性に対して様々な考え方の人がいます。

異性に対して好意を持つ人もいれば、同性に好意を持つ人も。

なんなら両性イケるという方もいるでしょう。

他人の性別を意識する人がいるように、自分の性を意識することも当然です。

自分の性別は天恵であり変えることは不可能だと考えている人。

自分がなぜ女に生まれたのか、なぜ男に生まれたのかを思い悩む人。

女に生まれたかった、男に生まれたかった。

そんな願いを持っている人もいるのです。


世間一般ではいわゆるマイノリティとされる人々も、

日々自分の生き方に悩みながらも、実現できない壁を乗り越えられないのです。


動画の男性はとても生き生きしています。

絶妙な語り口と軽快なトーク、

ときどき自分の過去を離しつつ、冗談も交えてメイクが進んでいく。

最近は男性メイクが増えているようですが、

それとは比較にならないレベルのメイクの丁寧さ。

マツコ・デラックスや美輪明宏のような、

濃いメイクがちゃくちゃくと施されていき、

初めに優しそうな表情を見せていた顔はどこへやら。

仕上げのウィッグをつける前に一言、

「目をつむって、そして祈ってて」

と言われて目をつむり、数秒後に開いてみると、

そこには見まごうことなく派手なメイクをした女性が。


いや、男性なのは分かるんですけど、その立ち居振る舞いは女性そのもの。

姿勢はいいし、顎を引いた顔はシャープで美しく、

流れるような長い髪はばっちり決まったメイクと相まって、

美しさの中にゴージャスさを取り入れた、素晴らしい仕上がりとなっています。

4人姉妹の影響でずっと化粧をしてきたそうですが、

この域まで来るのにそうとうな研究をしてきたはず。

人間の可能性を見た気がしました。


動画の終盤、視聴者への言葉として残したのがこちら。


”Don't dream it, be it.”

「夢はかなえるものよ」


容姿、服装、表情だけでなく声音も変えたその男性、いえ女性は、

「最高の人生よ。みんなにも最高の人生を、アリッサでした」

と言って、颯爽と今夜のステージに向かっていったのです。

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