4日目 地元

彼曰く、あの場所で誰かが待ってくれているのだろうか。


 ***


ちょっとお勉強。

日本社会の仕組みについて調べていました。


日本では主に3パターンの雇用形態に分類できます。


1つはいわゆる「大企業型」。

年収が400万を超える人もおり、「日本で働く」と言われたとき、

大多数が想像する規定となっている一般的な労働力の形。

この労働市場では一企業に就職すると離れることは少なく、

勤続年数が上がるほどに賃金、給与が上昇する傾向にあります。

主に大都市に多く、都心に住む人の大半が大企業型です。


また1つは「地方型」。

経済力では大企業型に劣るものの、地方に根差した企業精神、

地元の労働力を生かすための土壌として、

土着の人々の働き方の主だった労働形態。

大企業型の人々は全員が大都市出身というわけではありません。

地方出身者が大学進学や、大企業就職を目指して上京した結果、

都市住民が増えているだけで、その夢がすべて叶うわけではないのです。

一部は地元に立ち返り、あるいは異なる地方に出向し、

いわゆるUターン、Jターンによって居を移した者。

元都市出身で地方に活路を開いたIターンの人もそうです。


そしてそのどちらでもないのが「残余型」。

地方に帰るわけでもなく、都市部に住み続け、

かといって大企業に就職するわけでもなく、

中小企業を転々とするか、アルバイトやパートで日銭を稼ぐ、

零細な正規労働者、もしくは非正規労働者。

彼らは企業への愛着も低めであり、賃金も低い傾向にあります。


―――『日本社会の仕組み』小熊英二氏(2019)


 ***


ここにおいて、大企業型に比べて地方型は投票率は高いらしいです。

というのも、地方行政は地元の後援会や商店街、

地方の活力となりうる場所、街を支えるための活動を主としているため、

政治家もその責任者たちとの縁が深くなる。

地方議員にとって、地元企業は自分の発言力を高めるための基盤なのです。


一方で大都市に多く住む大企業型は投票率が低い。

彼らは「企業」への帰属意識が高く、「土地」へは低いからです。

自分たちの生活の基本は会社に以下に貢献したかに左右され、

生活水準を向上させるには会社に奉公することが何よりも重要。

極論土地がどうなろうと、会社が生き残っていればどうとでもなるのです。


また、残余型の人々も投票率は低い。

企業にも、土地にも、愛着や執着がない彼らには、

政治力はないに等しく、たとえ投票したとしても風見鶏でしょう。


ふと地元を思い返しました。

私の生まれた土地、血を分けた家族の住む町。

都市というには小さく、村というには大きい。

戸建てで庭付き、車庫もあり、今では家の中に犬が2匹増えています。

コロナでしばらく帰っていませんが、元気な便りは届いています。


もし、私がいま会社を辞め、取るものもとりあえずとんぼ返りしたら、

父は、母は、兄妹は、受け入れてくれるでしょうか。

期待も、あこがれも、尊敬も、願いも、

すべてを無視して、飛び出して、自分の力で生きると、

無知ながらに叫んだ自分の子を、今更ながら受け止めてくれるでしょうか。


地元が嫌いなわけではありません。

それは都市部に比べれば不便もあるし、電車賃は高いし、

コンビニは少ないし、やっているテレビ番組も少ないし、

虫は出るし、カエルがうるさいし、家族の目が疎ましく思えるときもある。


私の生まれた場所です。まぎれもない故郷です。

いずれは帰ることがあるかもしれない。

確信はなくても、心のどこかで思っているのです。

しかし今いるこの場所から、家族の顔を、地元の景色を思い浮かべると、

どうも私にはふさわしくない気がする。


私に土地がふさわしいんじゃなく、

土地に私がふさわしくないと。


私が寝ころび、踏みしめ、駆け抜けた、私を育てた土地そのものが、

私という存在をはねのけてしまうのではないか。


私は都市部の人間になりました。

でもここでは誰もが他人、私を見留める人はいない。

ここは私の居場所ではないと、本能的に感じてしまう。


では私の居場所はどこにあるのか。

いったい私はどこで生きているのか。

この日本という場所は、私のような小さな存在を忘れ、

世間一般の言う「大企業」を崇拝する人間しか、

「人間」として受け入れてくれていないのではないか。


そんな言いようもない不安に襲われて・・・。

私は何を感じている?


 ***


勉強中にふと嫌な想像をしましたが、

晩御飯の納豆を混ぜてたらなんだかどうでもよくなりました。

家族にLINEしたら散歩の写真くれました。

元気そうで何より。

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