2日目 手紙

彼曰く、あなたのそばにいる理由をくれないか。


 ***


『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』

劇場特典での書下ろし小説を読みました。


暁佳奈さんの書下ろしを実際に読むのは実は初めて。

そろそろ紙媒体を卒業して、電子媒体中心の読書にしたい時期ですが。

たまには紙で読むのもいいものです。

テキストデータでも、誰かが書いたものだと思うと、

不思議と温かみを感じます。


人のぬくもり、誰かの願い。

テレビシリーズで登場した一人の男性の後日譚。


夏の午後に降る雨のような、淡々としていて、

けれど晴れた先には何かあるのではと願うような祈りのお話。


 ***


偶然と一方の純粋無垢な願いから始まった、2人の手紙のやりとり。

どこにでもいる一般的な中年男性と年端もいかない孤児院の少女。

2人のつながりは少女の強い想いから始まった。


貰い手のいない少女の願いは、男には不要のもの。

亡くした妻子を思えば受け入れられるはずがない。


断っても食い下がる少女との押し問答。

どう断ってもつながりを作ろうとする願いの先、

少女の「あなたが、さみしいときに、ひつようだから」という最後の言葉。

―――寂しいのは君なんじゃないのか?

という疑問を男は持ったものの、手紙のやりとりは承諾した。


最初は気のない返事を書いていた。

それでも月に何度も届き、決まって美しい風景画の描かれた便箋に入れられていた。

彼女の書く字は年相応だけれど丁寧で、詩的な表現も理解できる。

利口さと生真面目さを感じさせるものだった。


男は手紙のやりとりを重ねるうちにまいってしまった。

そんな手紙がいくつも重なれば、少女の存在を無視することはできなくなる。

彼女の強い想いが、男の気持ちに入り込んで、

なくてはならない愛おしい存在になっていたのだ。

文学的な思考もあり、芸術肌で、心優しい女の子。

たった一度会っただけの男を気にかけてくれる。

優しく素敵な少女。


それほどの熱心なアプローチがあれば、男が少女の魅力にひかれるのは当然だった。


 ***


手紙のやりとりによる想いの交錯は、テレビシリーズでも描かれたもの。

劇場でもさえわたった詩的で、文学的で、幻想的な世界観は、

小説という紙面の文字に景色を映しても変わらない。


のびやかで、想いの丈が詰まった素敵な文章でした。

気づいてしまった男の想いと、願いの叶った少女の想い。

どちらも素敵で、純粋で、また涙がこぼれてしまいそうでした。


さびしく感じると胸が重たくなって、苦しくなって、息もできなくなる。

何かが欠けていると感じる2人には、世界は苦しくて生きづらい。

互いの隙間を埋めるように、2人の距離が近づいていく。

とても素敵で、胸が少し苦しくなるけれど、きゅんとする物語。


改めていい作品に出合えてよかったと思いました。

仕事の休憩中に読んだことは反省しています。

仕事をすることがとてもつらくなったのでね。


入場特典は先着次第らしく、全部で3種。

今日から第2弾が追加されたそうです。

ぜひとも読みたい他の3種。

誰か読んでいる人がいたらお借りしたい!

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