22日目 オニオン・オン・オニオン

彼曰く、頭痛が痛い、みたいな。


 ***


ときどきやってしまう口癖。


第1位、違和感を感じる。


”違和感”ですでに感じているんですよね。

外国人の同級生と大学時代に話したとき、

たまに「違和感を感じる」という人がいました。


言葉を扱う人の中には、こうした”二重表現”、

いわゆる”重ね言葉”には反駁したい気持ちがあると思います。


「腹痛が痛い」とか、「暴言を言う」とか、

同じ意味の言葉を重ねる言い方をされると、

「ん?」とはてなが浮かんでしまう。


日本語で話しかけられているのは間違いない。

けれどどうにもしっくりこない。

まさに”違和感がある”というような。


かくいう私もその一人。

日本語を聞いているのに外国語を聞いているような、不思議な感覚。

青森奥地の方言を聞いているならまだしも、

普段から話している人がそういう言い方をすると違和感が溢れてきます。


”違和感”を分けるなら、”違和”を”感”じる。

”違和”には”しっくりこない、合っていない様子”という意味があるそうです。

それを”感じている”状態が”違和感”。

私はそう解釈しています。


ですから”違和感を感じる”というのは、

”感じることを感じる”という重ね言葉になっているのです。


”違和感”はよく、”違和感を覚える”という表現で話されます。

これならまだしっくりくるんですが、この”覚える”には深い闇があるのです。


”覚える”という言葉にはいろいろな意味があります。


記憶する、思う、知覚する、学習する。

古典にまでさかのぼれば、思い出される、似ている、なども。


”違和感を覚える”の場合は、”心に感じる”なんだとか。

学生時代にそれこそ違和感を覚えて調べてみたとき、

そんな意味があることを知った私は素っ頓狂な声を上げて驚きました。


「結局、二重に感じるんかい!」


人の話す言葉には違和感を抱くくせに、

普段何気なく使っている表現には違和感を覚えない・・・。


これが日本語の闇の深さなのですか・・・。


もはや何に気を付ければいいのか分からなくなってしまいます。

私が話し下手なのは、話す言葉を疑いすぎて話したくなくなったからですし。

きっとそうだ。


でも話していてついこぼしてしまっても意味自体は通じるんですよ。

日本人って不思議ですよね、素晴らしき補完能力。


定義的に正しくない言葉を使っても、

周囲の反応や状況、言われたときの感覚、相手の表情や仕草など、

様々な部分から推測して、それっぽい解釈に落とし込む。


その結果、大体の意味を推察することができるので、

あえて言い方に突っ込むことはなく、

「あー、確かに私も最近頭痛いんだよねー」

なんて同調さえしてしまう。


これは普段から生の日本語に触れていないと難しいですね。

反応できません。

日本語覚えたての外国人には不可能な技術。


しかも最近は極端な略語が流行っているせいで、

日本語の複雑化が止まりません。


ただの口癖で言っていた言葉や、感情が爆発しただけの言葉、

1年を通じてよく話された言葉が「流行語」なんてもてはやされる時代。


いつ何時、今使っている言葉の意味が変わる時が来てもおかしくない。

そんな不安定な時代を生きているんだなぁ。


オニオンサラダにすりおろしオニオンドレッシングをかけていたら、

ふとそんなことを思いました。


オニオン・オン・オニオン。


重ね言葉ならぬ、重ね野菜。


オニオンの辛味成分が抜けきっていない感じが凄かったです。

生のオニオンはちょっと優しくないので、

ドレッシングをかけて毎度まろやかにすることを試みているんですけど、

今回はうまくいきませんでした。

ドレッシングをかけたにもかかわらず、なんだかしっくりこない感じ。


そうですね、言うなれば”違和感を感じましたね”。

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