20日目 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

彼曰く、何度も観て、必ず何度も泣く。


 ***


『「愛してる」を、知りたいのです。』


敬愛する人の遺した言葉の意味を知りたい少女の物語。


私の尊敬するアニメ会社京都アニメーション様の作品です。


先日遂に、待望の劇場版が公開されましたね!


世間にまで騒然とした空気が流れた事件から1年。

公開にこぎつけただけでも大変な苦労があったと思います。

多くの苦難や辛抱を耐え抜いてきたスタッフの皆さんの、

努力の賜物としての作品になっているはずです。


私も早速観に行ってきました。

いつも行っているところは席がいっぱいで予約できず。

感染対策で1つ飛ばしのため、劇場はどこもすぐに埋まってしまうみたいです。

仕方ないことですが、他の劇場に行くとします。


ようやく席の空いている回を見つけて入場。

この回も満席で皆さん待ちに待った様子で座っていました。

京アニファンの方は良心のある人が多いイメージです。

誠実で、謙虚で、情に厚い。

ときどき急進派みたいな人がいますが、

今日の人たちはみんなまともな人みたいで良かったです。

何様って感じですけど、ともあれ始まりました。


冒頭の暗い小径から暗転して、

どこか見覚えのあるお屋敷。


そこがテレビシリーズでも話題になった邸宅だと気づいたときには、

もうすでに涙がこぼれてしまいそうでした。

早すぎ。


第10話、先の長くない母親と残される娘の切ないお話。

私が最も涙したお話がクリップのように挟まれているせいで、

フラッシュバックするよりも鮮明に、

脳裏にあの場面が映し出されました。

もう泣いちゃう、ダメ。

私以外にも不意打ちにやられた人はいるようで、

ちょこっと鼻をすする音が聞こえました。


登場した人物はどうやらその娘のお孫さんのよう。

ヴァイオレットたちの世代からだいぶ経った様子。

おや、ヴァイオレットたちは出てこないのかな?と思いましたが安心。

孫が祖母の手紙を見つけ、代筆したヴァイオレットの足跡を辿る。

そしてヴァイオレットの自動手記人形ドールとしての最後を振り返るお話です。


ヴァイオレット・エヴァーガーデン。

元軍人、というより武器。

現CH郵便社所属、自動手記人形サービス。

戦争が終わり、武器としての役割を失った少女。

感情のない彼女が、手紙の代筆業を通して、

人の想いに触れ、感情を知っていくお話。


ときには時期国王と王妃の婚約宣誓文を。

ときには有名オペラ歌手の秘密の恋文を。

ときには劇作家の新作舞台脚本の代筆を。


人としての感情を知り、想いを届けることの大切さを知った彼女は、

敬愛するギルベルト少佐の遺した言葉の意味も、

少しは分かるようになり、自動手記人形としての功績もすさまじいものに。


想いを届けることの難しさ、

人の言葉の表と裏、矛盾する言葉と想いの複雑さを感じながら、

少佐への想いを胸の内に秘めた彼女は、

もうすっかり武器だったころの彼女ではない。


届けたい想いがあるのに届かない。

そんな哀しい現実を知っていながらなお、

少佐がどこかで生きていると信じる彼女はとても健気。

少佐の子供のころの本でさえ、愛しく思えて、

小さなものでも追い縋ろうとする姿は、まさしく恋する少女。

もしかしたら、恋という言葉では足りないかもしれません。


まさに愛。


彼女を通じて、人を想うことのもどかしさを知り、

想いを伝えることの大切さを痛感します。


冒頭の孫が本編終盤に、ヴァイオレットの消息が途絶えたある島に訪れます。

そこでは彼女の活躍を称えるかのように、

彼女の姿を留めた郵便切手が使われていました。


時代が進み、手紙を使うことが少なくなっても、

その島で年間書かれる手紙は最も多いそう。


伝える技術が進歩しようと、伝わる想いは変わらない。

人の言葉の尊さにも気づかされます。

心の底に眠ったままの深い情動が呼び起こされるような、

激しく、しかし静かに沸き上がる感情が新鮮な、

素晴らしい映画体験でした。


ネタバレはしたくないので書きませんが、

泣くポイントがいくつもあって、もう滝のように涙が止まりませんでした。

手で拭うのももったいなく、濡れたマスクもいつしか外してしまって、

ただ流れるままに流していました。

いいなあ、人間って複雑だなあ。

そんなことを思いながら。


ラストの泣きだすシーンはもう涙なしには見られません。

そして何度観ても、必ず涙を流すに決まっています。

これはもう決定事項、必須事項です。

あそこで涙を流せなくなったとき、私はもう人間ではないかもしれません。

人間だからこそわかる感情ですから。


映画を観る前にテレビシリーズを見返しておいてよかった。

配信サービスに感謝。

そして何より、京都アニメーション様に感謝を。

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