16日目 ド忘れ

彼曰く、ときどきやると、すごく自分が嫌になる。


 ***


帰宅中。

雨が降るかもと思っていたのですが、

なんとかそれは避けられそう。


いや、雨は降っていたみたいなんですけど、

私が帰るころにはすっかり上がり、濡れる心配はありませんでした。


幸い、自転車を駐輪場の、ひさしのある場所に置いていたので、

サドルがびしょびしょになることもありませんでした。


穴の開いた私のサドル。


座るとちょうどお尻の当たる部分のスポンジが、

はがれた表面の革から覗いています。


触ってみたも水が湧き出てくることはありません。

沁みたりする心配は大丈夫そうで安心です。


この状態で座るとお尻が気持ち悪くなるので、

早く直さないといけないんですけど、

むしろこの姿に愛着が湧きつつあって、

しばらくこのままでもいいかなと、思っていたり。


最近まで「自転車そろそろ買い替えたいなー」って、

お金のない現実を無視して宣っていた、

奔放な私はどこに行ったのか。


親譲りの無鉄砲な坊ちゃんだったら、

電柱に思いっきりぶつけて、親に何か言われても、

「先輩の親の車が道の真ん中に停まってて邪魔だったからぶつけた」

といって素知らぬ顔で金を要求したりしそうですね。


私はそこまでがめつくないので、そんなことはできないんですけど。


何が大事かを考えていたら、自転車の1つくらい我慢してしまいますし。


その結果忘れてしまうなら、多少の納得と妥協があるので許せます。


自分のことは許してあげたい、それくらいは。


 ***


でもド忘れしてしまうのは許せません。


普段から気を付けずとも無意識のうちにできていることなのに、

それができなくなってしまうのは非常に心苦しい。


自分のこととはいえ、いや自分の事だからこそ。


ふがいない自分が表に出てきたような感じで、

なんだか気恥ずかしくなってしまうのです。


今日は打ち合わせが長引いて、確認事項が増えてしまいました。


そのせいで残業時間も考えず資料の再作成をしていたら夜も更けて、

家につく頃にはてっぺん近くになりそうです。


そんな日は早く帰りたい。


一刻も早く家路について、ベッドインして寝転がりたい。


ドア1枚隔てたその先には、長年寝てきた愛しのベッド。


ちょうど休日に天日干しして、気持ちふかふかになったばかり。


今日も私が眠れるように、ふかふかになって待ってくれているのに。


私は鍵を会社に忘れた。


どうしていつもはできていることが、今日に限ってできないのか。


着いた瞬間絶望しました。


「な・ん・で・!・?」


夜中、両隣の人には申し訳ないけれど、心の叫びを叫んでしまいました。


ときどきあるのは仕方ないですが、ちょうどひと月前にやらかしたばかり。


これは私の腑抜けの証拠なのでしょうか。


気持ちの入れ替えが必要かもしれません。


9月も半ば、ということは今年の終わりも近うございます。


このようなことでくよくよしていてはいけません。


改めて気を付けるようにしないとですね。


まずは会社に鍵を取りに行くところから。


先ほど通り過ぎたばかりの道を逆方向にまた進んでいく。


この後の記憶はシャットダウンして、明日の仕事に励むとしましょう。

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