30日目 焼肉の日

彼曰く、本当は昨日書きたかった。


昨日のお話。

8月29日が何の日か、ご存じでしょうか。

知る人ぞ知る、巷で有名な、働くみんなが求めてやまない、

あの食事を言い訳にしても許される日です。


焼肉の日。


万歳焼肉!大勝利焼肉!

すべての欲望と願望をむき出しにして、

口いっぱいに広がる涎を肉汁で割る日です。

肉汁を割るのか、涎を割るのか、

目的と手段が同時並行で進んでいく感が否めませんが、

口に入れば全部一緒なので気にしないことにしましょう。


大切なのは肉を食らうことができるという一点のみ。

普段から牛肉を食べることはなかなかできません。

ミンチならまだしも精肉を贅沢に食べるなんてことは、

よほどの幸運、饗宴のそれなりの理由が必要だと思っています。

例えば仕事を頑張っただとか、

例えば一世一代の告白をしただとか、

例えば万馬券が当たっただとか、

自身の幸運と労苦を労うにふさわしい出来事があるべきなのです。

それほど現代の若者にとって、焼肉とは特別な存在。

子供のころから焼肉を食べ続けているなんていう人は、

それなりの社会的ステータス、経済的余裕、貪欲な食への欲求を叶える術、

それらを有しているのが常ですが、

多くの現代の若者にとっては焼肉とはもっと崇高なもの。

食べに行くことができるのは、親の許可と同意とやる気が必要です。


「最近焼肉食べてないじゃない?」

「お肉食べたくない?」

その程度で親が動いてくれることはありません。

親も人間、人の子です。

家計に対する人徳的観念から渋ることが安易に予想できます。

同意を勝ち取ることはおろか、出かけることそのものが面倒だと反論されては、

焼肉に行くという可能性はないに等しいです。

では家でやればいいじゃない、ということを言っても、

鶏肉の方が安いから、色んな料理に使えるよ、私の唐揚げ美味しいでしょ、

などと鶏肉の安価な点、汎用性の高さ、家庭料理全体主義を掲げられ、

二の句を継がぬうちに夕食は唐揚げパーティーが敢行されるわけです。

致し方なし、唐揚げうまし。

母の唐揚げ大好きです。


しかし哀しいかな、それでは欲望は尽きません。

私が食べたいのは「焼肉」であって、「肉料理」ではないのです。

肉を焼き、垂れる肉汁が揮発して立ち上る香り、

焼かれる肉のピンク色、口に運ぶまでのワクワクした高揚感、

そして口に入れてから飲み下すまでの幸福。

それを満足いくまで堪能することのみを求めているのです。

歳を重ねるほどに脂は腹に重く沈み、

食べることをいつしか忌避してしまいがちですが、

大人の都合なぞ子供には関係ありません。

食らうためなら恥も捨てよう。

駄々もこねよう、せっつこう。

そんな思いを声と体の動きに込めて、

親に精一杯アピールします。

「そろそろ焼肉行かないと、野生が足りなくて死んでしまう」

我ながらなんと阿呆な理由なのか。

仕方ないのでテスト成績1位になった順位表と、

部活での大会成績を掲げて焼肉に連行されることを強要します。

他にも道場内大会で優勝したとか、

畑仕事を手伝ったからとか、

暑くて死にそうだからとか、

様々な理由にかこつけて焼肉を食べに行っていました。

許してくれていた親に感謝です。


ここまで焼肉を好きになった理由は別にあるのですが、

それはまた別の機会に。

とにかく昨日は焼肉を食べました。

映画鑑賞後の昼下がり。

朝から何も食べていなかった私の最初の食べ物は、

一人立ち食い焼肉「治郎丸」でのコメカミから始まりました。

噛めば噛むほどコメカミが動くのを感じます。

これよこれ、これぞ肉を食らうということ。

全身で、肉という一つの命の重みを感じている感覚。

続くタン、トントロも非常に良い。

精肉はトウガラシとトモサンカクを選択。

熟成焼肉は初めてでしたが、味がいつもより深く感じました。

軽い熟成でこれなのですから、長期熟成だとどうなってしまうのか。

濃い味を受け付けなくなる前に食べいきたいものです。

焼肉と言えば私はレモンサワー。

昼からと酒いう背徳感で第1弾を終え、

まかない煮込みの安心感をはさんで第2弾。

大将が裏メニューを教えてくださいまして、

まず真っ先にシビレを注文。

なかなか食べられない貴重な部位を久しぶりに堪能できました。

サンドミノ、ハラミ、裏メニューの牛ヒレの誘惑にも負け、

脂と赤身のデスマッチが口の中で繰り広げられました。

第2弾のお供はウーロン茶。

お肉の良さをじっくり味わい、集中することができるのでおすすめ。

最後に牛レバーと牛ハツ。

結局裏メニューすべてを注文してしまい、

焼肉という欲望にいいように振り回されてしまいました。

しかし私は満足です。

後悔はありません。

ただ食べたいという欲望に従い、

好きな焼き肉を好きに食べることができた幸せ。

大変な状況の中、経営を続けてくれるお店に感謝です。

次はどの店に行こうかな。

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