18日目 決断

彼曰く、む~~~~~~~~~~~~~~ん、悩ましい。


じゃあ、この件はこういうことで。

あとで全員がチェックできるように、

今日の会議で出た補足内容は簡単にメモ書きでいいからまとめておいて。

話し合いの中で出てきてしまった追加の必要資料はこっちで探しておくよ、

たぶん今日の資料のまとめと訂正を反映して、

出席者に改訂版を渡して、

作業にすぐ入れる人用に最優先でまとめる必要な参考写真を探すだけで

大分時間かかってスケジュール遅れちゃいそうだから。

こっちで拾えることはやっておくから、

今は自分がやらないといけないことだけ集中してやってくれ。


そんなこんなで終わった会議。

突然やってきた仕事のために必要な会議に連れて行かれたことを思い出します。

あれは去年の6月ごろ。

まだ入社して間もなく、自分の仕事が何かも把握しきれていないときに、

初めて会う人たちばかり、誰が何をしている人かも分からないまま、

とりあえず必要だろうという無意識的危機感のもと、

意味の分からない単語をメモしていました。

それが今では後輩君たちに教える立場になっているわけですから、

成長って怖いですね。

自分でいうのもなんですけど。


会議が終わった後、疲れた顔で戻ってきた後輩君に言いました。

「どうだった?初めての会議は」

「いや、よくわからないまま進みましたけど、責任を持つってことは分かりました」

おっとそれは頼もしい。

私も最初のころは意気込んでいました。

壁はどうせたくさん待っていますから、

一つ一つぶつかって自分の力で乗り越えてほしいですね。

しかしその壁をどう越えられるかが難問です。

力だけで乗り越えられるならいいですが、

そうとも限らないのが社会の大変なところです。

理不尽極まりない決定が、想定外の出来事を招くなんて言う事態はザラ。

予定調和なんてありえません。

事実は小説よりも奇なり。

というよりは社会は想像よりも現実至上主義、と言ったところでしょう。

ホームランのはずが強風にあおられてセンター一直線になることだってあるんです。

(実際に会ったかは知りませんけど)


特に難しいのは「何を誰がいつやってどういう結果になるのか」。

細かくする必要はない場合もありますが、

そのあとのフローのことも考えてどう依頼するかというのは悩みどころ。

新人のうちは正しいことが何かも分からないまま進むことがよくあります。

壁の越え方どころか、道の歩き方もままならないのです。

そしてそれらの前には必ず道の選び方で悩むことがあります。

それこそ「決断力」がものをいうときなのです。

自分がこう進めたいという意思と、

こうなるであろうという予測能力、

それが完璧なら問題が起こることなんてありません。

なのに私たちに人間にはそんなご都合主義的解釈ができる便利能力はない。

四次元ポケットも実現できないんですから。

しかし責任を持つことは出来ます。

いわば最終絶対防衛ライン。

ここを放棄したら他が割を食い、

同時に自分の評価が失墜する可能性を孕んだ毒の沼。

背水の陣で挑んでも負けるかもしれませんが、

その理不尽こそ現代社会に生きる若者に強いられた運命なのです。

何ともつらい世の中です。

だからこそここで「私に責任がありますので」と言える度胸は身につけてほしい。

人の強さの底が見えるのはここでしょう。

これを生き抜くことができればこの会社での社会人の仲間入りです。

楽しく仕事のできる内に、前向きな考えを癖づけてほしいですね。

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