2日目 部活

彼曰く、汗を流したあのころが懐かしい。


雨続きだった天気もようやく夏らしくなった頃合い。

そろそろ部屋の掃除をせねばならないと思い立ち、

ちょっとだけ気合入れて掃除をしました。

いつも通りの範囲ではあるけれど、

今日は部屋のすみっこにも気を配ります。

空拭きだけでは掃除した感が出ない、

かといってぞうきんとバケツで雑巾がけというほど、

立派な日本家屋に住んでいるわけでもなし。

ここは便利な掃除用ウェットシートを使って、

さっぱり簡単にやるとしましょう。

一人暮らしに優しい世界でよかったです。


湿気と熱気がこもった部屋は、

カビや埃の温床。

すぐ外に大家さんの自家菜園があるのもあって、

部屋の湿度は若干高めな印象。

初夏の水分を吸いすぎて、壁をすり抜けてきているようです。

それは蒸し暑くもなります。

「絶対に頼らないぞ」と宣言し、

見事耐え抜いた去年とは比較にならないほど寝苦しかったので、

今年は諦めて冷房解禁。

せめてもの抵抗に「ドライ」機能だけを使っていました。

湿度が下がったかはわかりません。

こういうのは気分の問題、私が下がっていると思ったならそれでよし。

それとサーキュレーターを遂に購入。

満を持して部屋の換気を行う準備が整ったわけです。

小型でもパワフル、部屋干しにも大活躍。

この子が来てくれたおかげでこの梅雨を乗り越えられました。

本気で引っ越しを考えた令和2年7月でしたね。

私の中での歴史的瞬間になるでしょう。

実行に移すのはまだ先ですが。


掃除をしている間に懐かしいものを見つけました。

竹刀袋。

そう、剣道の竹刀袋です。

1本だけ竹刀がまだ入っていました。

ぞうきんとかサーキュレーターとかと合わさると、

高校の武道場を思い出します。

くっさい部室で着替えて、

肌が傷つくことも厭わず竹刀を振り回し、

汗と涙を流したあの夏を。

痛い暑い臭い怖い辛いの五苦を乗り越えて、

先輩や戦友にぶつかっていったあの青春を。

懐かしくなって少しだけ素振りをしてみましたが、

思ったとおりに竹刀を振れない。

腕は上がるけど感覚が違うし、

振り下ろすのもヘナっとしている。

足さばきも拙いし、なにより姿勢が崩れてだらしない。

鏡を見ていなくても分かります。

今の私は残念剣士。

剣士と名乗るのも恥ずかしいです。

YouTubeやtiktokで剣道の一本まとめ動画を見ますが、

高校生がこんなに動けるのかー!と、感心してばかり。

私も当時は動き回ってやりづらい相手と言われたこともあるんだけどなぁ。


動画に撮られて投稿されている試合の数々。

有名な選手ばかりだからかもしれませんが、

総じて彼らの構えはとても安定しているんです。

相手の出方を窺って、あるいは先制して技を出す。

中学生の時は気を惹きつけるために竹刀を合わせて、

カチャカチャやりすぎたもの。

毎度先生に注意されました。

チャンバラじゃないんだぞ、と。

チャンバラが何か知らなかったので、

とりあえずカチャカチャやってまた怒られてました。

それは意味のないカチャカチャだったからであって、

強豪選手たちは無駄な動きが実に少ない。

落ち着いていて、動くときは一瞬で。

静と動の振れ幅が凄いんです。

メーター振り切れちゃいますよっていうくらい。


知っていますでしょうか。

竹刀の速度、一般男性でも時速20キロは出るそうで、

平成の傑物、高鍋進さんレベルになると、

時速30キロを軽く超えるとも言われています。

東京の行動を走っている車と同じくらいの速さ・・・。

軽く事故死するレベルですね。

竹刀が細くてよかったと思うかもしれませんが、

細いということは打点が限られる、

つまり圧力が集中するということ。

小手を外して肘に当たったり、

同を外して脇腹や太ももに当たるのを想像・・・、

するだけでもう痛いです。

Wikipediaで「こちらもかなり痛い」とか書かれてるのを見て笑ってしまいました。

達人たちは私たちとは違うところで戦っているのかもしれません。


思えばあのころは日ごろ稽古させてもらっている感謝の気持ちをこめて、

丁寧に掃除をしていました。

早く去りたいと思っているこの部屋にも、

住んでいる感謝の気持ちは忘れないようにしたいですね。

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