29日目 後輩

彼曰く、大切に思ってはいるのです、分かりづらいかもしれないけれど。


後輩を教えるのも大変なもので。

仕事の中で苦心することの1つでもありましょう。


自分に与えられた仕事と同じく、

後輩の指導もやるべき仕事です。

しかしながら、という話。

すべての仕事は等しくやるべきことではあるのですが、

すべてを同時にすることは残念ながらできません。

物事には優先順位をつけることが肝要なのです。

先輩に教えられるままに仕事を覚え、

自分なりに工夫して仕事をこなし、

後輩に教えるころになっても、

物事の優先順位はつきまわるもの。

後輩、あるいは新人として這いつくばってときとは違い、

やることが増えるごとに、

優先順位の順位も大きくなっていくものです。


まず初めにやらなければいけないこと。

それは期限が近く、自分の責任のもとにあること。

いわゆる責任者として、自分が動かしている企画などのことです。

誰かに頼ることもできなくはないかもしれませんが、

社会人として、1人の人間として、

一度自分で受けた仕事はやりぬきたい。

その信念と覚悟を尊重してくれるからこそ、

上司や先輩も任せてくれる。

感じる期待は身に余っても、

その仕事に対する野望があれば、

大きな期待は背中を押す大きな力になるのです。

野望のため、がゆくゆくは組織のため、

やがて会社のため、と変わっていく。

自分の中での責任感というのは、

細かいところまでは気付かずとも、

知らぬうちに様々な影響が波及しているものなのでしょう。


次点でやるべきことは、人それぞれ。

それでもたいてい自分の仕事に関すること。

期限に余裕があるものだったり、

人にお願いしているものであれば、

自分がすぐに動く必要はありません。

ゆっくりやってもよいのです。

人にお願いしているものであれば、

スケジュールや期限、スタートの認識をすり合わせておく。

その事後確認のために、こまめに連絡をとることを、

互いの中で暗黙の了解を得る。

仕事は責任の押し付け合いでして、

自分にあるものでなければ、

相手の責任にあることを盾にして、

催促でも注文でもできるもの。

もちろん人道的な常識の範囲内で、ですが。

自分に責任があるものでも、

未来の自分に責任を押し付ければ、

今の自分は他のことをしてもよいのです。

こうした次点に優先すべきことは、

ある程度の余裕と緊張感を伴うもの。

少し気を付けていれば、いつの間にか終わっていたりするものです、


最後に厄介なのが、さほど優先度の高くないもの。

自分以外にも責任がある、

いわゆる公共物の管理、事務的で定期的なやり取りなど、

共有している仕事のことです。

後輩の指導というのも、

実はここに入っていたりします。

もちろん後輩を1人の先輩につけて、

マンツーマンでの指導をする場合、

この限りではありません。

とはいえ、この仕事が絶対的に優先度の高いものかと言われれば、

そうとは言い切れないところがあります。

定期的な公共物の補充のように、

やり慣れた事務的な書類仕事のように、

後輩の指導は手の空いたタイミングでやることに入ります。

どうしても後回しにしてしまうのです。


初めに言ったように、

人間にはすべてのことを同時にすることはできません。

責任の大きいものから始めていくのが、

結果的に自分の身を守ることになるのですから。

わが身かわいさに、周りのことは見落としがち。

後輩の大変さを分かっていないわけではなく、

会社で生きる上で必要なことは、

自分に与えられた責任を全うすることが第一と知っているから。

それと同じく、後輩の心中も分かっている。

過去の自分も同じように、

後回しにされてきた経験があるから。

先輩として後進育成の必要性も、

組織の一員として同僚を気遣う姿勢も、

すべて承知しているのです。

それでも責任に応じて順位はつけられてしまうもの。


自らの運命がそういうものだと分かるまで、

かなりの時間は必要ですが、

先輩なりに苦労し、苦心し、苦悩していることも、

後輩の子には知ってほしいものなのです。

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