20日目 服

彼曰く、服は今日の気分を表し、心の向きを上げてくれる。


朝起きるとやけに熱い。

焼けるような背中に感じる。

飛び起きてもそこに火はなくて。

開けっ放しの小さな窓から。

熱い日差しが侵攻中。

総員、警戒を厳とせよ。

本日の気温、29℃。

湿度、36%。

まるで真夏の朝じゃない。

この先の地球、大丈夫?

そんな気持ちでスマホを起動。

時刻、12時20分。

正午を過ぎてお昼である。

絶望の狼煙のろしが立ち上る。

しばらく意識を飛ばすこと5分。

ゆっくり身支度を整える。

地球のことより目先のこと。

即物的思考を優先する。

ひとまずこの熱を逃れたい。

たしかアイスがあったはず…。


冷えた甘みが口に広がる。

一瞬天国が挨拶する。

目を開くと地獄があるので、

あくまで瞳は閉じたまま。

舌と喉と胃で感じる、

ひとときの癒しに浸っている。

でものんべんだらりと食べられない。

あとひと匙の誘惑に耐え、

帰ってきたときの感動を思い、

天上の場所へ戻しておく。

ぜひともご一緒したいけれど、

小さくて狭いので諦める。

それではそろそろ始めましょう。

お出かけ前のルーティーン。

鏡の前に移動して、

今日の気分を聞いてみる。

「今日の私はどんな気分?」

目を閉じ、耳を傾ける。

「熱に負けない元気な子」

小さい声が聞こえたかも。

私の口が動いたけれど、

多分それは妖精のせい。

熱さにやられた誰かさんの、

想像と妄想の産物です。

カーテンが軽く風に揺れる。

なんだか嬉しくて頬が緩む。

今日はいいことがありそうだ。

さっそく、レッツお着がえタイム!


見慣れた部屋に光が差す。

まるで一つのショウルーム。

机のグラスに反射して、

色んな光が散らばってる。

夏前とはいえもう熱い。

気分は一大音楽フェス。

音楽は別に聞こえないけど、

昨日の動画の曲が聞こえる。

うだる熱さもかき消すほど、

爽快な風を感じた。

外は見るからに地獄だけど、

心に余裕を持っていたい。

汗をかいてもしつこくなくて、

どこか軽さも持ち合わせた、

夏にも着れる白Tを、

ハツラツな感じにまとめてみる。

上から下に白と青。

パンツは色の薄いデニム。

足には水色インソックス。

ライトグレーのスニーカー。

髪はアップにまとめておいて、

メイクは目元を印象的に。

よし、と鏡の前にリターン。

見慣れた顔が見返してくる。

すっきり爽やか夏コーデ。

たくし上げて、おへそを見せてる。

風が当たって気持ちいい。

気分は浜辺の日焼けギャルね。

毎日やってることだけど、

毎回楽しくて仕方がない。

広がる裾が大人な感じ。

これで足が長かったらな。

ふふ、と笑って玄関に向かう。

恥ずかしいからおへそは隠した。


さっきは風があったのに、

出たと同時にやんじゃった。

道の向こうのおじさんが、

ハンカチ片手にのそりのそり。

随分暑くてつらそうね。

隣をさっと歩いていく。

たとえ風はなくっても、

今日の気分は海辺ガール。

潮の香りはしない分、

感じる風は気持ちいい。

心で感じる風が吹く。

不思議と涼しくなってくる。

服と肌の隙間に生まれる、

熱さを遮る空気の精。

想像と妄想の産物だけど、

熱さを軽やかに弾いてくれる。

爽やかな気持ちが盛り上がる。

昨日の曲が流れてくる。

この服でならついていける。

海辺の楽しい夏フェスに。

流れる曲のリズムに乗せて、

口ずさみながらステップを踏む。

今日はいいことがたくさんある。

そんな気分になりながら。

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