第60話 海で食べるラーメン。
ビーチサッカーは結愛の活躍により同点で終わった。従って罰ゲームもなしということに。そうして、俺たちは安心して海の家へやってきた。
「おお、海で食べるラーメンもいいもんだな」
ランチのメニューに選んだのはもちろんラーメン。結愛や御代もラーメンで、愛奈ちゃんや初音も思い思いのものを頼んでいた。
隣に座る結愛がラーメンを一口すすって、顔を綻ばせる。
「なんだかいつもより美味しく感じますね、なおくん」
「なんでだろうな。べつに人気店とかってわけじゃないのに」
間違いなくこの前結愛と食べに行ったラーメンの方がラーメンとしてのクオリティは高いはずなのに、今はこちらの方が美味しく思える。
「それは! 身体が塩分を欲しているからではないでしょうか!」
首をひねっていると、結愛の隣に座る御代がクリーム色の髪を振り乱して身を乗り出す。
「私たちの身体は長時間炎天下で活動したことにより水分を欲する共に塩分を必要としています! だからラーメンが普段よりもおいしく感じるのではないかと! それも考えてこの海の家のラーメンも塩分濃いめに作られているのだと思います! あとはやっぱりシチュエーションによるものも大きく、青空の下で食べるお弁当が美味しいのと同じように、潮風をあびながら食べるラーメンは美味しいのです!」
「お、おう……?」
あまりの勢いにまともなリアクションも返せない。
「つまり、海の家で食べる濃いめのラーメン! これこそが最もラーメンを美味しく食べる方法の一つなのではないかと、私は考えます!」
「な、なるほど……」
御代の勢いが強すぎて何言ってるかさっぱり頭に入ってこなかった。さすがラーメン好きの同士。
まぁ、暑くて塩分不足だからしょっぱいものがうめえ! ということか。
それにしてもこのラーメン、くせになる。一度食べたら一生忘れられない美味さだ。見た目はシンプルな、どこにでもある中華そばといった感じなのにシチュエーションと体調の問題でここまで変わるのだから不思議なものだ。
来年もまた、結愛と一緒に食べに来ることができるんだろうか。ふと、そんなことに思いをはせた。
「おにーさんっ」
「あ?」
「はい、あーんっ」
「んあっ――――ってあっつ! なんだこれ!?」
突如、向かいに座る愛奈ちゃんにアツアツの丸い物体を口の中へ放り込まれる。なんで人間の体って口の前に食べ物出されると口あけてしまうの!?
「たこ焼きですよ~? 美味しいですか? 愛奈のあーんで美味しさ100倍ですか?」
「いや、あつっ、アチッ……っ」
まともに答えることも出来ずにハフハフとしながら口の中のたこ焼きと戦う俺。マジで火傷する。あーんするならフーフーも完備してほしかった。
「あ、じゃあこれも。直哉、あーん」
「今度はなにを……むぐぅ!?」
たこ焼きをやっとの思いで飲み込んだ直後に初音から今度はかき氷を口に詰め込まれる。
「どう? 冷えた?」
「つめってえだろうが!?」
「えー直哉ってばワガママ~」
なぜか顔を突き合わせて「ねー」と言いあう初音と愛奈ちゃん。なんだよ、仲良いじゃねえかよ……。
「桜井」
「ああ!?」
長谷川に呼ばれて半ば切れ気味に視線をやる。
「僕の焼きそばも食べるかい? もちろんあーん、で」
「クソ死ね」
殺意を込めて言ってやると長谷川は愉快そうに笑って引き下がった。マジでふざけんなよ。
「なおくんなおくん」
隣の結愛が少し控えめにこちらへ身を寄せる。
「わ、わたしのも食べますか?」
「いや結愛のは俺と同じじゃ……」
「食べませんか……?」
結愛は少し不安そうにしながらも麺とスープをレンゲに乗せて丁寧にフーフーすると、そーっと口の前へ差し出してきた。
「あーん。どうぞ、なおくん……」
上目遣いに見つめる結愛に逆らえるはずもなく、俺はそれを口にする。
「……どうですか?」
「美味いっ。結愛に食べさせてもらうとやっぱり美味さ倍増だな」
いや真面目に、結愛に食べさせてもらうことで最高のラーメンは完成した。
「ありがとな」
「えへへ……」
恥ずかしそうに身を縮める結愛を見ると愛おしさが止まらなくなって、俺はその髪を優しく撫でる。するとさらに、結愛は頬を赤く染めた。
「うわ~結愛ねえデレデレ~」
「いやあデレデレなのは直哉でしょー。あたしたちと態度違いすぎ。あー暑い暑い。かき氷もう一つ食べなきゃだわこれ」
「あ、愛奈も食べます!」
「それなら私も頂きましょう」
わざとらしくそんなことを言って、女子3人は席を立つ。
それから長谷川もムカつく笑みを浮かべながらリア充グループへ合流すべくこの場を後にした。
「あ、あはは……ちょっと恥ずかしいですね」
「だな……」
「ま、まだあーん、しますか?」
「え、いや、まあその、頂こう……かな」
「はい、どうぞ……♪」
二人残された俺たちは恥ずかしさに身悶えつつも、お互いに吹っ切れたフリをして食べさせ合いっこをしたのだった。
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