第58話 ビーチサッカー。

「ということで、ビーチサッカーをしたいと思いまーす」


 昼前、初音がどこからか調達したサッカーボールを指先でくるくると回しながら言った。


「何がというわけ、じゃい」


「なんかスポーツやりたいじゃん。ビーチバレーでもいいわよ?」


「いや、海入れよ」


「まあまあ。砂浜もビーチの醍醐味っしょ?」


「知らんし。というか、単純に受験生には体力がですね……」


「え? 体力が何?」


「えぇ……」


 はて、と首をかしげる初音。


 この文武両道ギャルビッチめ。遊び慣れているアウトドアリア充は体力までインドア陰キャとは比べ物にならないらしい。


 俺は浮き輪でぷかぷかしてるだけでも波に揉まれて疲れるんだぞ!?


 とまあ、俺の心の叫びが届くはずもなく。ビーチサッカーの開催が決まった。


「ルールは基本サッカー、というかフットサルみたいな感じで。まあ固いことは言わないし適当にね。人数は3対3。時間は15分一本。で、さっそくチームメンバーは……」


 初音がぐるりと俺たちを眺める。


 今集まっているのは俺と結愛、愛奈ちゃん、御代、長谷川で、初音を入れて6人だ。


「じゃあ、直哉と結愛ちゃんが同じチームは確定として。あと一人は――――」


「はいっ! 愛奈に! 愛奈にお任せください!」


 愛奈ちゃんが気合十分な様子でぴんと手を挙げる。


「愛奈ちゃん? 大丈夫? それだとさすがに戦力が……」


「問題ありません! 結愛ねえは見た目通りのへっぽこですが愛奈は運動できますので!」


「ちょっと愛奈!? お姉ちゃんへっぽこじゃないよ!?」


 結愛が愛奈ちゃんの一言に物申すように食ってかかる。そこからは完全に姉妹のじゃれ合いだ。なんだか微笑ましい。


「むう……まあいっか。うちらみたいな受験生より中学生の方が動けるやんね。直哉もそれでいい?」


「まあいいんじゃないか。遊びなんだし」


「そね。じゃあそれで」


 あまり考える様子はなく、さっと決めてしまう初音。


「おにーさんはもう家族みたいなものですから! 家族の絆をみせてやりましょ~!」


「ま、愛奈ぁ……!? か、家族とか……さっきから変なことばかり言わないの!」


「にへへ~」


 怒られているのにうれしそうに顔をほころばせる愛奈ちゃん。


 なんかもう、この姉妹眺めているだけでよくないですか?


 いや、それにしても家族はまだちょっと早いよ……。


「じゃあ後は余りで。あたしと翔太、御代さんね」


「ちょ、ちょっとよろしいでしょうか!? わ、わたし運動は苦手で……できれば見学が……」


 御代が意を決したように初音へ申し出る。


「そうなの? じゃあどうしようかしら。あとひとり……」


「――――彩花がでるわ!」


 よく耳に響くソプラノボイスが初音の声を遮る。


 声の方向を振り向くと、そこには如月彩花きさらぎあやかが立っていた。


「彩花? あんた早田のことはいいの?」


「竜ちゃんは出家したわ! だからあとはそっちのふたりとついでに妹ちゃんを倒すのみ!」


 ビシッとこちらを指さしてくる如月。


 いやまあ、もうその敵対心については理解したからいいけど。


 ……早田出家しちゃったの? 恋人そんな簡単に出家させていいの? 冗談だと信じたい。ていうか、出番があれだけだった早田が少し可哀想になってきたかもしれない。


「まあそういうことなら。こっちはあたしと翔太、そして彩花で。問題ない?」


 初音はまたぐるっと俺たちを見る。


 いや、如月が反則かましてこないならいいですけど……。少し怖い。


「少し戦力差はありそうな気がするけど、良いんじゃないかな。桜井がある程度はなんとかするだろうし」


「あ?」


 スッと、みんなを代表するように長谷川が前へ出る。


「なんとかするんだろ?」


「いや、遊びだし。勝敗とかそこまで気にしないけど」


 楽しめればそれでよくないですか? 俺はゲームもスポーツもエンジョイ勢なんですよ。


「僕はキミと真剣勝負がしたいんだけどな?」


「知らんし」


 にっこりと笑みを強める長谷川から目を逸らす。そういやダブルデートのときにも何か言ってたなこいつ……。何もかも、俺がこいつに勝てることなんかないというのに……。


「絶対勝つからね! 翔くん!」


「そうだね」


 気合十分の彩花に同調する長谷川。あちらはやる気に満ち溢れているらしい。


 まあ、やれるだけやってみよう。結愛や愛奈ちゃんの前で格好悪いところは見せたくないからな。


「あ、負けた方のチームはお昼奢りね?」


「え?」


 遊びっていったじゃないですか初音さん……。

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