第56話 それぞれの関係。

「――――って感じね」


「はあ……意味わかんね」


 初音から先ほどの一件、それからあの二人についての説明を受けた俺は思わずため息を吐いた。


 その話を簡単にまとめるとこうだ。


 まず、早田竜吾そうだりゅうご如月彩花きさらぎあやかは幼馴染であり、恋人同士でもあるらしい。


 しかし早田は浮気性であり、特に結愛に執着している。それによって起こったのが数ヶ月前の昼休みの一件だった。


 それを知った彩花――改め如月は結愛に嫉妬した。そしてそれ以来、結愛含め俺を目の敵にしている。その上如月も如月で早田に好き勝手やらせる気はないらしく、自分でも浮気したふりをして早田の嫉妬を煽っている。

 それもこれも、自分の気持ちを分かってほしいから。自分を見てほしいから。早田を好く気持ちがあってこそ、らしい。


 如月がなぜ早田を好いているのかは正直俺には推し量れないが、お互いが浮気を繰り返し、それでもやっぱりお互いの元へ帰ってくる。


 それはなんとも不思議で、俺には理解できない関係性だと思った。


 特に早田。基本的にこいつが移り気で、浮気するのが悪いだけだよな? いやでも、それがあるからこそ二人は最終的にお互いの気持ちを確かめ合えるのか?


 とりあえすそれでも早田を見捨てない如月さんぱねえっす。あんなギャルビッチな成りをして、実は愛の戦士だったのですね……。


 いつか機会が合ったらダブルデートの時のことはそこはかとなく謝罪したいなと、ちょっぴり思った。まあ、あの時の如月に対する扱いを間違っていたとも思わないのだが。少しだけ、如月が不憫だ。


「でもなんか……いいですね。そういうのも」


 俺が考えをまとめていると、結愛がゆっくりと口をついた。


「……そうかぁ?」


「はい。上手く言えないし、私には絶対同じようにできないなって思いますけど。なんだか素敵です」


「ふーん。まあ、俺は結愛がいてくれればそれでいいしな。浮気とか、他の女とか、どーでもいいわ」


「ふぇ……っっ!?」


 何気なく俺が言うと、結愛はビクンと身体を跳ねさせてあわあわとしながらこっちを見た。


 その顔は真っ赤に染まっている。 


「どうかしたか? 顔赤いぞ? まさか熱中症か!?」


 慌てて結愛のおでこを触ってみる。するとかなりの熱を感じた。


 しかし結愛は俺以上に慌ててシュバっと俺の手から逃れるようにバックステップで一歩下がった。


「だ、だだだ大丈夫ですからっ! ちょ、ちょっとびっくりしちゃっただけですから……っ!」


「へ?」


「な、なおくんがいきなり恥ずかしいこというから……」


 結愛はぷいっと顔をそむけながら唇をとがらせる。


「あー、いや、すまん。思わず本心がでてた」


「本心って……うぅ~~~~~……っ! なおくんズルいです!」


「いたっ。いたい、いたいって……っ!」


 結愛が涙目になりながら、珍しくボディタッチも厭わず俺の胸を叩いてくる。


 それから、ふわっと俺の耳元に顔を近づけると誰にも聞こえないように小さく呟いた。


「もうっ……私も、なおくんがいてくれればそれでいいんですからね?」


「お、おう……」


 それだけ言うと、結愛はすいっと俺から距離をとった。


「あのー。おふたりさーん? アツアツなのはいいけど、中学生もいるんでそのくらいにしてもらえます~?」


 丁度いいころ合いと見たのか、静観していた初音が茶化すように声をかけてくる。


 結愛はそれを聞いてさらに顔を赤くするが、そのことを初音にも指摘されて冷たい水をもらうためテントの方へ引っ込んだ。


 そして結愛と入れ違いに愛奈ちゃんがこちらへ駆けてくる。


「おにーさん! おにーさん!」


「うおっ。どうした? 愛奈ちゃん」


 いつもに増してテンションが高い愛奈ちゃんに面食らってしまう。


「あんなに可愛い結愛ねえ、初めて見ました! ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ペコペコと頭を下げる愛奈ちゃん。めっちゃお礼いうじゃん。


 いや、なに? これ?


「結愛ねえを乙女にしてくれてありがとうございます!」


「にひひ、まあたしかにラブラブすぎよね~。軽く引くくらい」


 愛奈の後を追って初音もこちらに歩み寄ってくる。


「いや、べつにそんなでもないだろ」


「いやいや、あんなこっぱずかしいこと言える時点でバカップルだから」


「はあ……」


 あれくらいならふつう、というか、未だにお互い何が何やら分からなくてテンパりまくりなんだけどなあ。


「まあ、あたしからすればあんたたちも、彩花たちもみんな羨ましいんだけどね」


「あ? どういう意味だ?」


「さあ? あんたは一生知らなくていんじゃない?」


 初音は金髪を揺らしながら少しだけ寂しそうに「にひひ」と笑った。


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