第55話 乱入者再び。
「あっ、直哉~。結愛ちゃーん」
「……は?」
愛奈ちゃんに連れられてとあるテントまでやってくると、聞き覚えのある声が俺たちを迎えた。
見ればそこには、大胆なビキニを着た金髪の女性。美人ではあるものの、知り合いじゃなかったら絶対近づかないと断言できる見た目だ。
「可憐さーん! 二人ともお連れしました~」
「お~よしよ~し。愛奈ちゃんはいい子だね~」
「えへへ~」
思わず立ち止まってしまった俺と結愛をしり目に、駆けて行った愛奈ちゃんがその金髪の女性――俺の幼馴染である
初音はそんな愛奈ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
愛奈ちゃんを撫でるのは俺の仕事だったはずなのに……ぐぬぬ。
「なあ、結愛。愛奈ちゃんの友達って……」
「はい。そうみたいですね。初音先輩、何度かうちに来てるので……」
初音の他にも長谷川翔太含め、何人か見知った顔が見えた。おそらく、ウチのクラスのリア充グループだろう。
そんなやつらとすでに交友関係を築いているとか……愛奈ちゃんおそるべし……。
「おーうマジで美咲姉もいるじゃん! しかも水着! やっべえ!」
結愛とふたり立ちすくんでいると、リア充グループのうちの一人がこちらに近寄ってきた。
男はまるで俺が見えてないかのように、結愛の前に立つ。
「なあなあ今日こそオレと一緒によぉ……」
いやらしい笑みを浮かべながら話し始める男。
俺はその顔をたしかに覚えていた。
結愛と付き合ってすぐの頃の昼休み、結愛に絡んだ男子生徒。
名前はたしか、
また面倒なやつを……そう思って初音を睨むと、初音は愛奈ちゃんと戯れながらも「ごめーん」と手を合わせていた。
しかしそれだけで、仲介に入ろうとする様子はない。長谷川も見てみるが、俺と目が合うとスッと肩をすくめように薄く笑った。
(なんなんだよ、あいつら……)
自分たちの友人の手綱くらいしっかり握っておいてくれ。
俺はひとつ深呼吸をすると、その男子生徒と結愛の間に割って入った。
「おい。俺の彼女になんか用か?」
「ああ? 誰だっけ、おまえ」
早田は怪訝そうに俺を見る。俺のことは忘れたらしい。結愛の言葉にあんなにムカついた様子だったくせに、都合の良い頭をしたやつだ。
「未だに覚えられてないとは驚きだな。俺も結愛の彼氏ってことでそれなりに顔が知れてしまったと思ったんだが――――」
そこまで言って、俺は声音を変える。よりニヒルに、煽るように。
「ああ。ごめんごめん。結愛にランチの誘いさえご丁寧にお断りされてバカみたいに一騒動起こしたっていう噂が校内中に広まった早田くん程じゃないよなあ。君に比べたら、俺なんてミジンコだった。ほんと恐れ入るよ」
「て、めえ……」
早田はいかにもな青筋を浮かべて、拳を振りかぶろうとする。校内に広まった噂がよほど屈辱的だったらしい。
「おお? ムカついたらすぐ暴力か? そんなんだからお断りされんじゃねえのぉ? そんな地雷男に近づきたいやつがいるはずねえもんなぁ」
「ぐ、この……っ!」
「な、なおくんそれくらいで……っ!」
言いすぎだと判断したのか、結愛が俺の腕を掴んで止めに入る。
が、次の瞬間、早田の拳が振り下ろされ――――
「――――竜ちゃん何やってんの!?」
「ぐへぇ!?」
その拳が振り下ろされることはなかった。
それどころか、バシッと力強い音が響き早田が悲鳴を上げる。
どうやら、突如現れた女性に背中を思いきり蹴られたらしい。
「ってあんたあの時の! てことはそっちは……
早田を蹴り倒した女はこちらを見るなり叫ぶ。それからキッとこちらを睨んだ。
「美咲結愛……また竜ちゃんをたぶらかして……っ!」
「……へ?」
「いや、絡んできたのは早田なんだが」
「そんなの関係ない! あんたのせいで竜ちゃんが
彩花……? そこまで聞いて、俺はやっと思い出す。
ダブルデートでの乱入者。たしかその時の女の名前が彩花だった。
あいつが結愛を嫌っていたのはよく覚えている。しかし俺に付き合わないか、とか話を持ち掛けていたりもしたはずで……? それなのに今までの会話から察するにこの女は早田の……?
ダメだ。わけが分からないよ……。
「あ、あの……彩花さんですよね……? あのときの……。な、なんで突然……」
結愛が恐る恐る話しかける。
「はあ!? あんたと話すことなんてないし! とにかく、竜ちゃんは連れて行くから!」
彩花は早田を引っ掴んで引きずるようにして歩き出す。ちょっとヒステリックすぎやしませんかね……。
「ちょ、ちょっと待ってくれ彩花! オ、オレはまだあの野郎と話が……っ!」
「いいの! 竜ちゃんには美咲結愛なんていらないから! 彩花がいれば十分だから!」
「い、いやそうじゃなくて……美咲結愛のことよりもまずあの野郎をぶん殴ってやらねえと~~~~……っ!」
「竜ちゃんは黙ってて!」
「彩花ぁ……」
口論しながらどこかへ消えていく二人。
その後には、訳が分からない状況に取り残された俺と結愛が残った。
「なんだったんでしょう。あの人たち……」
「……さあな。でもまあ、あいつらが知ってるんじゃないか?」
訳知り顔で傍観していた初音と、終始苦笑いを浮かべていた長谷川を俺は指さしたのだった。
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