第52話 ラーメンリベンジ。

「わぁ……すごく綺麗な盛り付けですね……っ!」


 結愛は感激したようにパシャパシャと写真を撮る。SNSをやっているわけではないようだが、妹の愛奈ちゃんに自慢するらしい。

 

 それはそうと、結愛が撮っているのはラーメンの写真である。


 水着を買って、ショッピングモールを巡った後、俺たちはこれまた以前の約束を果たすべくラーメン屋へやってきたのだ。


 今回は知り合いの影もなく、二人きり。しかも個室があるラーメン屋だったため、知り合い以外の人すら気にする必要はない。


 昨今のラーメン屋の進化はすごいなあとしみじみ思う。陰キャカップルに優しい。


「さて、食べるか」


「はいっ」


 いただきますと声を合わせて、それぞれのラーメンを食べ始める。


 俺のは醤油ラーメンで、結愛のは塩ラーメンだ。


 結愛の言った通り盛り付けはとても綺麗で、これならインスタ映えもするというものだ。


 ピンク色のレアチャーシューに、穂先メンマ、味玉、ネギなどが綺麗に盛り付けられていて、麺線もしっかり整えられていた。


 まずは透き通った醬油スープを一口。


 醤油のキリっとした味と、鶏ガラベースの旨味が口の中に広がる。あっさりとした見た目とのど越しなのに、どっしりと確かな旨味を感じるスープで、どんどん飲んでしまいたくなる。


 しかし俺は一度レンゲを置いて箸を構える。


 そしていよいよ、麺を一口。ツルッとしたモチモチの麺で、小麦の香りがふわっと香る。スープとの絡みも悪くない。


 初めて来る店だったが、総じてレベルが高い。


 これなら結愛も喜んでくれるはず。


 そう思って向かいに座る彼女を見やるが――――


「結愛? どうした? 口に合わなかったか……?」


 結愛は麺を一口食べたままピタッと固まっていた。


 俺の声に気づいて、結愛はハッとこちらを見る。


 そして興奮した様子で俺を呼んだ。


「なおくんなおくんっ」


「お、おうどした……?」


「これ、これ……っ! 美味しいです! すごく!」


 結愛はまるで未知の食べ物にでも出会ったかのように興奮のまま、子供のようにはしゃいだ。


 ズズズっと麺をすする。しかしあまり麺類を食べ慣れていないせいか、あまり上手くすすれていなくて、そんな姿が可愛かった。


 俺はそんな姿を見て、ホッと一安心。


 気に入ってもらえたようで良かった。自分の好きなものを大事な人に食べてもらうというのは、思いのほか小心者にとっては緊張する行為だったのだ。


「こっちの醤油ラーメンも食べてみるか?」


「はいっ。ぜひっ」


「よし、それなら交換しようか。俺も塩一口もらっていいか?」


「もちろんです。あ、でも交換しなくても……」


 そう言って結愛は何やらレンゲの上に麺などを乗せていく。 


「ほら、これでミニラーメンの出来上がりですっ。はいっ、あーん♪」


「そういうことか……じゃあ、あーん」


 結愛の差し出してくれたミニラーメンを一口で頂く。


 醤油ラーメンよりも少しあっさりとしていて、ホタテなどのダシの旨味を強く感じるスープで、これまたとても美味しかった。


「うまいっ」


「ふふっ。よかったです」


「結愛が食べさせてくれたから、美味しさ倍増だな」


 俺が言うと、結愛は少し恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。


 それから俺も結愛の真似をしてミニラーメンを作って食べさせてあげたり、ラーメンの感想を話し合ったりなどして憩いの時間を過ごした。


「こんなに美味しいならもっと早く挑戦するべきでした、ラーメン」


「これからたくさん楽しめるってことだし、まあいいんじゃないか?」


「そう……ですね。これからはデートのたびにラーメン屋さんへ行くのもいいかもしれません!」


「ははっ。それはさすがに行き過ぎだ。でも、結愛が気に入ってくれて本当に嬉しいよ」


「私も、なおくんの好きがまた一つ知れて嬉しいですよ♪」


 帰り道、そんな会話をしながら俺たちは歩いた。俺の受験勉強のため午前中のみのわずかなデートだったが、とても楽しかった。


 それに数日後には、二人だけの海水浴も待ち構えている。


 毎日勉強勉強で参ってしまいそうだが、結愛がいればいくらでも頑張れると思った。

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